テラーノベル
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鐘が鳴り止まない。
白塔を囲むように、神殿騎士団が展開している。
中央広場。
その最奥。
純白の階段の上に、アルトが立っていた。
剣を帯び、《剣聖候補》の紋章を額に浮かべて。
レオンは歩み出る。
隣にリュシア。
背後には、地下闘技場の少年、祝福を削られた者たち。
選ばれなかった側。
「レオン」
アルトの声は、静かだった。
「まだ戻れる」
「どこに」
「制度の中にだ」
アルトの剣が光る。
「お前は装置だ。暴走しているだけだ」
「違う」
レオンは首を振る。
「俺は選んでいる」
その言葉に、アルトの目が揺れる。
「選ぶ資格があると思っているのか?」
「ある」
即答。
「祝福がないからこそ」
アルトの眉が寄る。
「お前は、何も持たなかった」
「だから、奪う痛みを知っている」
空気が張り詰める。
「アルト」
初めてそう呼ぶ。
「アルトは、俺をどう思ってる?」
沈黙。
長い。
やがて。
「……誇りだった」
小さく。
「同じ日に立てると思っていた」
祝福の壇上で。
並んで。
「でも」
拳が震える。
「お前が“無祝福”だった瞬間」
視線が逸れる。
「俺は、安心した」
正直すぎる告白。
「俺だけが選ばれたと」
胸が痛む。
レオンは笑う。
静かに。
「俺はあの日、初めて選ばれなかった」
アルトはずっと選ばれてきた。
「だから、アルト」
一歩踏み出す。
「今日は、俺が選ぶ」
神殿上空。
巨大な水晶が浮かび上がる。
祝福の源。
均衡の核。
声が響く。
人の声ではない。
『装置、帰還せよ』
神の意志。
冷たい。
『均衡を乱すな』
レオンの胸の奥が灼ける。
能力が暴走する。
広場中の祝福が、見える。
糸のように。
絡まり合い、差を作り、支配を生む構造。
アルトが斬りかかる。
剣聖の一閃。
レオンは避けない。
受け止める。
奪う。
だが――
全部は奪わない。
半分だけ。
アルトの膝が折れる。
「なぜ全部奪わない!」
「アルトは敵じゃない」
剣を握ったまま、兄を支える。
「制度が敵だ」
空へ手を伸ばす。
水晶が震える。
選択の瞬間。
固定するか。
全祝福を奪い、自分だけが器になるか。
それとも。
解体するか。
均衡そのものを。
リュシアの声。
「選びなさい」
レオンは目を閉じる。
優しい人は、奪わない。
でも守るなら、選ぶ。
なら。
「祝福は、与えられるものじゃない」
目を開く。
「育てるものだ」
手を握る。
奪った祝福。
削った祝福。
全てを。
再分配する。
だが均等ではない。
神のようにはしない。
個人の“意思”に反応する形に。
努力、願い、選択。
それに応じて揺れる祝福。
固定でも支配でもない。
流動。
水晶が砕ける。
光が世界に降る。
紋章が消える。
肩書きが消える。
《剣聖候補》の文字が、兄の額から消滅する。
代わりに。
小さな光が灯る。
不安定で、未完成な。
だが本人のものだ。
広場が静まり返る。
神の声は消えた。
制度は崩壊した。
アルトが息を吐く。
「……不便だな」
「そうだな」
レオンは笑う。
「努力しないと強くなれない」
「最悪だ」
でもアルトは立つ。
自分の足で。
剣を握る。
紋章なしで。
リュシアが空を見上げる。
「聖女も、いなくなったわね」
「肩書きだけだ」
「ええ」
彼女は微笑む。
「ここからは、自分で名乗る」
遠くで歓声が上がる。
混乱もある。
怒号もある。
だが。
誰もが、初めて“横並び”になった。
レオンの胸は、静かだ。
力は残っている。
だが装置ではない。
奪うこともできる。
だが選ぶのは自分だ。
「これで終わりか?」
アルトが問う。
「いや」
レオンは首を振る。
「ここから始まりだ」
制度なき世界。
祝福なき権威。
努力と欲望がむき出しになる時代。
争いは増えるかもしれない。
格差は別の形で生まれるかもしれない。
でも。
それは。
神のせいではない。
人間の責任だ。
レオンは広場を見渡す。
元・無祝福。
元・装置。
そして。
これから何者にでもなれる存在。
「俺は」
深く息を吸う。
「奪うんじゃない」
拳を握る。
「問い続ける」
何が正しいか。
何を守るか。
選び続ける。
優しく。
残酷に。
人間として。
夜明けが、白塔を照らす。
神の光ではない。
ただの朝日。
だがそれでいい。
世界はもう。
誰かに選ばれなくても、回り始めている。
完。
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