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庭で剣を振る音がする。
振り返らなくてもわかる。
レオンだ。
またやっている。
「アルト」
声が飛んでくる。
「もう一回やろ」
息が上がっている。
額に汗。
服は土だらけ。
さっきまで父の稽古を見ていたはずなのに、もう剣を振っている。
「……まだやるの?」
「うん」
当然みたいに言う。
アルトは少し笑う。
「さっき三十回くらいやったよ」
「数えてない」
「数えなくてもわかる」
レオンは剣を構える。
構えだけは真面目だ。
アルトは少しだけ迷う。
父はもう家の中だ。
本当は休んでもいい。
でも。
レオンは待っている。
断る理由もない。
アルトも剣を構える。
「いいよ」
レオンの顔が明るくなる。
それが、少し不思議だった。
普通は逆だ。
兄に勝てない弟は、だんだん嫌がる。
機嫌が悪くなる。
やらなくなる。
でもレオンは違う。
何回負けても来る。
「行くよ」
剣が振られる。
アルトは受ける。
軽い。
弾く。
また落ちる。
レオンは拾う。
また来る。
また落ちる。
何度も繰り返す。
アルトはふと聞く。
「なんでそんなにやるの?」
レオンは少し考える。
それから言う。
「一緒だから」
「何が」
「アルトと」
剣を握り直す。
「同じだから」
アルトは黙る。
同じ。
そう言われると、少し変な感じがした。
アルトはずっと言われてきた。
才能がある。
剣の家に生まれた子だ。
将来が楽しみだ。
父も、そういう目で見る。
でもレオンは違う。
剣を振るとすぐ腕が痛くなる。
構えも少し遅い。
体も軽い。
なのに。
「同じ」
と言う。
アルトはレオンを見る。
汗だらけで、息を切らして、でもまだ立っている。
「……変なやつ」
アルトは小さく言う。
レオンは笑う。
「よく言われる」
また剣を構える。
夕日が庭を赤くする。
アルトはふと思う。
祝福の儀式。
16歳。
神殿。
いつかその日が来る。
アルトはきっと剣の祝福をもらう。
そう言われている。
多分、本当だ。
でも。
そのとき。
レオンは隣に立つんだろうな、と自然に思う。
同じ日。
同じ壇上。
祝福を受ける場所。
レオンは隣で笑っている気がする。
アルトは剣を構える。
「来い」
レオンが走る。
また負ける。
でも。
レオンは笑う。
アルトは思う。
――まあいいか。
隣にいるなら。
それでいい。
そのときのアルトは、まだ知らない。
祝福の壇上で。
並ぶはずだった場所が、
一つだけになることを。