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#独占欲
三十日のうち、二十七日が過ぎた。
金色の減衰は止まりきらない。
透明な星は、十三。
観測塔は静まり返っている。
結論は、ほぼ出ていた。
――無色を隔離。
形式上は保護。
実質は、排除。
エリュネは、荷をまとめていた。
豪奢な衣装ではない。
最低限の私物だけ。
感情は安定している。
胸の振動は、穏やか。
「これが最適解」
自分に言い聞かせる。
無色が存在してから、星は揺らいだ。
因果が証明できなくても、疑念は消えない。
国が不安定になる可能性があるなら。
自分が去ればいい。
扉が勢いよく開く。
「何をしている」
王太子。
珍しく、呼吸が荒い。
「移動の準備です」
「許可していない」
「ですが明日の評議会で決定します」
冷静な声。
「先に退けば、国の混乱は最小限です」
彼の瞳が揺れる。
「君は、私からも退くのか」
「殿下は国を選ぶべきです」
「私は君を選ぶと言った」
「それは感情です」
「そうだ」
即答。
金色が、にじむ。
だが純粋な輝きではない。
濁っている。
焦り、怒り、恐怖。
「君がいなくなれば、星が安定する保証はあるのか」
「保証はありません」
「ならば意味がない」
「ですが疑念は消えます」
「疑念のために君を差し出せと?」
声が震える。
初めての明確な動揺。
エリュネは彼を見る。
金色が、さらに濁る。
強い光ではない。
重い色。
「……それは」
胸がわずかに痛む。
「殿下が苦しむのは、合理的ではありません」
「合理性の話はしていない!」
彼は机を叩く。
金色が荒れる。
観測塔で警報が鳴る。
「王太子の波形、急上昇!」
「不安定化!」
爆発的な愛ではない。
執着。
失う恐怖。
「私は君を失うのが怖い」
はっきりと言う。
「国よりも」
その瞬間、金色がさらに濁る。
黒に近づく。
依存の色。
エリュネは理解する。
これが、国家が恐れる愛。
制御不能な感情。
「殿下」
彼女は近づく。
自分から。
「それは、愛ですか」
「分からない!」
彼は初めて答えを持たない。
「だが、君がいない未来を受け入れられない!」
胸の振動が強まる。
だが荒れない。
一定。
彼女は彼の手に触れる。
今度は迷いなく。
濁った金色に、透明が重なる。
荒波が、ゆっくりと鎮まる。
観測塔。
「波形、整流!」
「金色の黒化、停止!」
色が、純度を取り戻していく。
爆発ではない。
鎮静。
調律。
「……奪っていない」
エリュネは呟く。
「私は、色を奪っていない」
むしろ。
「揺らぎを、均している」
無色は空白ではない。
影響を受けない。
だからこそ、過剰な感情を吸収しない。
依存を生まない。
燃え尽きない。
「私は」
彼女は彼を見上げる。
「殿下を愛せません」
静かな言葉。
彼の金色が揺れる。
「ですが」
続ける。
「殿下が他の誰かを選ぶ未来を、私は望みません」
それは所有ではない。
選択。
「私は、殿下を選びます」
胸の振動が、強くなる。
だが色は出ない。
透明な星が、一斉に輝く。
観測塔が騒然となる。
「無色星、増幅!」
「既存星の減衰、停止!」
金も青も、安定する。
奪わない。
依存しない。
燃え尽きない。
それは、持続。
彼は、彼女の手を強く握る。
「私は」
声が低い。
「君を愛している」
初めての明言。
だが金色は爆発しない。
静かに、澄んでいる。
「それでも、君が愛せなくていい」
エリュネは、目を閉じる。
胸の振動は確かだ。
名前はまだない。
だが、確実に存在する。
明日の評議会で、答えは出る。
排除か。
再定義か。
空の透明な星が、王宮全体を包み込むように瞬いていた。
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