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教室の空気が、完全に“見世物の匂い”へ変わっていた。
「逃げんなよ、奴隷」
男子の一人が背中を押す。
遥の体は机につまずき、そのまま膝から崩れ落ちた。
「立てよ。立てって言ってんだろ」
腕を乱暴に引っ張られ、肩の関節が嫌な音を立てる。
痛みが走り、遥は呻き声を漏らすが、男子は一切手を緩めない。
「お前、最近調子乗ってね? 女子に絡まれてよ。
“奴隷のくせに”ってさ」
別の男子が遥の腹をつま先で踏みつける。
重さをかけて、ゆっくり、逃げられないように。
「声出せよ。痛いんなら痛いって言えよ。
そのほうが面白いから」
遥は歯を食いしばりながら、吐き捨てるように言った。
「……うるせぇ……」
「は? なんか言った?」
足にさらに力が込められる。
呼吸が詰まり、視界がにじむ。
それでも、遥の目が男子を睨んだ瞬間──
ゴツッ。
拳が横から飛び、頬に当たった。
頭が揺れ、耳鳴りが広がる。
「睨んでいい相手じゃねぇだろ、奴隷が」
笑い声が広がる。
男子の暴力は、明らかに“制裁”へ移行していた。
遥はなんとか上半身を起こし、荒い息で言う。
「……俺は……奴隷じゃ……」
「へぇ。言えるじゃん」
男子が髪をつかんで無理やり顔を上げる。
「じゃあ、この状況説明してみ? なんでこうなってんの?」
遥は声を震わせながら、搾り出す。
「……お前らが……」
バチン、と頬をはたかれる。
「正解は、“お前が下だから”でした〜」
男子が笑う。
「分かったなら態度で見せろよ、奴隷」
美桜が前に出る。
その笑顔は、暴力を肯定する“観客”から一歩踏み込んだ残酷さを帯びていた。
「男子ばっかり楽しんでずるくない?
私たちも、遥の“躾”、ちゃんとしなきゃ」
女子たちがにじり寄ってくる。
「ねぇ遥、顔あげて?」
美桜が顎を指先で持ち上げる。
その距離は近すぎて、遥は身体を硬直させた。
「そんなビビる?
あは、心臓の音、ここまで聞こえる」
取り巻きの女子が後ろから遥の肩に触れ、声を潜めて囁く。
「ねぇ、噂、覚えてる?
“美桜がお前にキスした”ってやつ。
あれ、まだみんな信じてるよ?」
教室中がニヤつく。
「……してねぇだろ」
遥がかすれた声で言う。
「“してない”なんて、どう証明するの?」
別の女子が耳元に唇を寄せる。
息が触れた瞬間、遥の全身が強張る。
その反応を見て、女子たちは一斉に笑い出した。
「ねぇ見て、ビクッとした」
「こういうのほんと苦手なんだ?」
「奴隷のくせに“純情”とかウケるんだけど」
美桜が男子のスマホを指さす。
「じゃあ今、本当に“こういうことされてる風”の写真撮ったら──
どう見られると思う?」
遥の顔がみるみる青ざめる。
美桜は遥の制服の襟を軽くつかみ、わざと顔を近づける。
唇が触れていないことは、遥だけが知っている。
写真で見れば、完全に“そういう瞬間”にしか見えない距離。
男子が興奮混じりの声で言う。
「うわ、これマジにしか見えねぇ……」
「動画でも撮っとく?」
「バズるわ、これ」
女子たちが楽しげに言う。
「ねぇ遥。“違う”って言いたいんでしょ?
でも、誰が信じると思う?」
遥は震える声で絞り出した。
「……やめろ……頼むから……」
美桜が耳元で囁く。
「“奴隷”はお願いの仕方も知らないの?」
背後の男子が再び肩を押さえる。
女子たちはカメラを向け、わざと“キスする直前”の構図を作り出す。
遥の呼吸は浅くなり、胸が締めつけられ、
教室全体の嘲笑が遠くなっていく。
「ほら、撮れた」
美桜がスマホを見せる。
完全に“誤解される形”の写真。
「この一枚で、あんたの立場なんか一瞬で壊れるんだよ?」
遥の声は、震えながらも拒絶を叫んだ。
「……ふざけんな……!」
「ふざけてないよ」
美桜が微笑む。
「これは“教育”。奴隷がどこに立ってるか教えてあげてるだけ」
男子が肩を押しつぶし、女子が精神的な屈辱を重ね、
教室という空間全体がひとつの“処刑場”になっていく。