テラーノベル
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ドアが開く。
相談者はスマホを握ったまま言った。
「送ったあと、既読つくまでが一番きつい……」
蓮司は椅子を引く。
「何がきつい」
「変なこと送ってないか考える。
文章見返して、消したくなる」
「消したことは?」
「ある。送信取り消し。で、また送り直すか迷う」
蓮司は座る。
「送る前に決めてないな」
「え」
「送るか、送らないか。
その判断を“送ったあと”にやってる」
相談者は黙る。
「だから揺れる」
「……確かに」
少し沈黙。
「じゃあどうすればいい」
「送る前に基準決める」
「基準?」
「“これで終わってもいいか”」
相談者は眉を寄せる。
「終わっても?」
「そのメッセージで会話が止まってもいいなら送る。
嫌なら直すか送らない」
「そこまで考えてなかった……」
間。
「でも送ったあと気になるのは変わらない」
「気になるのは止まらない。
行動を固定する」
「どうやって」
「送ったあと、見返さない時間を決める」
「無理そう……」
「5分でいい」
相談者は少し考える。
「5分なら……」
「その5分で何するかも決めとけ」
「何でもいい?」
「いい。別のことに使う。
同じ画面に戻るな」
少し沈黙。
「でもさ」
「何」
「既読つく前って、まだ何も起きてないのに怖い」
「“未確定”が苦手なんだな」
「うん……」
「人は空白に意味を足す。
大体、悪い方に」
相談者は苦笑する。
「やってる……」
間。
「既読ついたらマシになる?」
「少し。でも次は“返信来るか”に移る」
「終わらないじゃん……」
「だから区切る場所を自分で決める」
相談者は黙る。
「送った時点で一回終わりにする」
「終わり?」
「評価をそこで切る。
相手の反応は別の話」
少し沈黙。
「それできたら楽だな……」
「最初は無理。
でも回数で慣れる」
相談者はスマホの画面を伏せる。
「今までは」
「何」
「送ったあともずっと会話続けてた感じ」
「一人でな」
相談者は小さく笑う。
ドアの前で立ち止まる。
「送ったら終わりって考えるか」
「それでいい」
ドアが閉まる。
既読がつく前の時間は、
何も起きていない時間だ。
意味を足しているのは、自分の側だ。
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