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ドアが開く。
相談者は少し曖昧な顔で言った。
「人に合わせてたら、自分のテンション分からなくなった……」
蓮司は椅子を引く。
「どの場面」
「相手によって変えてる。明るいやつには上げて、静かなやつには落として」
「普通のことだな」
「やりすぎてる気がする」
蓮司は座る。
「どんな違和感」
「一人になったとき、どれが本当か分からない。さっきまで笑ってたのに、急に無音になる」
「疲れる?」
「地味にくる」
少し沈黙。
「それ、“調整”じゃなくて“上書き”してる」
「上書き?」
「場に合わせるのはいい。でも元のテンションを残してない」
相談者は黙る。
「だから戻る場所がない」
「……確かに」
間。
「じゃあどうすればいい」
「幅を固定する」
「幅?」
「上げるにしても下げるにしても、振れ幅を決める」
相談者は眉を寄せる。
「具体的に」
「“これ以上は上げない”“ここまでは下げない”って線引く」
「そんな細かくできる?」
「最初は雑でいい。“無理してる感出たら止める”でもいい」
少し沈黙。
「無理してる感って?」
「笑ったあとに一瞬しんどい感じが残るやつ」
相談者はすぐ頷く。
「ある……」
「そこがライン超えてるサイン」
間。
「でも合わせないと浮かない?」
「全部合わせなくても浮かない。“少しズレてる人”は普通にいる」
相談者は小さく息を吐く。
「今まで全部寄せてた……」
「だから自分が薄くなる」
少し沈黙。
「あともう一個」
「何」
「“戻す時間”作れ」
「戻す?」
「一人のときに、何も再現しない時間」
相談者は考える。
「音楽聴くとか?」
「いい。誰にも合わせない状態を意識的に作る」
「それで分かる?」
「分かるというより、“残る”」
間。
「残る?」
「削れなかった部分が、自分のテンション」
相談者は黙る。
「今は全部削ってる」
「……それだ」
少し長い沈黙。
「なんかさ」
「何」
「どこでも同じでいなきゃって思ってた」
「同じじゃなくていい」
「ズレてもいい?」
「いい。その方が楽」
相談者は小さく頷く。
ドアの前で立ち止まる。
「少し残してみる」
「それでいい」
ドアが閉まる。
合わせすぎると、自分の輪郭は消える。
少しズレてるくらいで、ちょうどいい。
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