放課後。
ドアが開く。
「……いいですか」
「どうぞ」
生徒は入ってきて、椅子に座る。少しだけ迷ってから口を開く。
「クラスに、めっちゃ好かれてる人がいるんです」
「うん」
「別に悪い人じゃないし、普通にいいやつなんですけど」
少し言葉を選ぶ。
「なんであの人ばっかり、って思っちゃって」
日下部はそのまま聞く。
「自分も普通にやってるつもりなんです。話もするし、空気も読んでるし」
机を見ながら続ける。
「でも、あの人の方に人が集まる」
短く息を吐く。
「なんか、納得できないというか」
少し小さくなる声。
「ちょっとだけ、イラっとするというか」
日下部は頷く。
「普通の反応だ」
生徒が顔を上げる。
「そうなんですか」
「うん。比べてるから」
短く言う。
「比べてる」
「同じ場所にいると、どうしても基準になる」
生徒は黙る。
「で、なんで好かれてるか分からないと、余計に引っかかる」
「はい」
日下部は少し考える。
「理由はだいたい三つ」
「三つ」
「一つは、分かりやすい」
生徒は首を傾げる。
「分かりやすい?」
「リアクションが大きいとか、よく笑うとか、話しかけやすいとか。周りが入りやすい形をしてる」
生徒は少し頷く。
「それは……あるかもしれないです」
「二つ目は、否定しない」
「否定」
「人の話を止めない。ツッコみすぎない。だから一緒にいて楽」
生徒は考える。
「それもある気がします」
「三つ目は、空気を軽くする」
日下部は続ける。
「場が重くなりそうなときに、自然に戻せる人は好かれやすい」
生徒は少し黙る。
「全部、自分にない気がします」
「なくてもいい」
日下部はすぐに言う。
「好かれ方が違うだけだから」
生徒は顔を上げる。
「違う?」
「目立つ好かれ方と、静かな好かれ方がある」
短く言う。
「全員が同じタイプになる必要はない」
生徒は考える。
「でも、やっぱりちょっと悔しいです」
「そうだろうな」
日下部は頷く。
「じゃあどうするか」
「どうするんですか」
「真似するか、気にしないか」
生徒は少し笑う。
「シンプルですね」
「シンプルでいい」
日下部は続ける。
「少しだけ取り入れるのはあり。リアクションを大きくするとか、話を最後まで聞くとか」
「全部変えなくても?」
「全部やると不自然になる」
短く言う。
「一個だけでいい」
生徒はゆっくり頷く。
「もう一つは?」
「比べるのをやめる」
生徒は苦笑する。
「それできたら苦労しないです」
「だろうな」
日下部は少しだけ肩をすくめる。
「でも、比べるとずっと負けた感じが残る」
静かに言う。
「相手の土俵で見てるから」
生徒は黙る。
「だから」
続ける。
「自分のやり方で関係を作る」
生徒は少し考える。
「……分かるような、分からないような」
「今はそれでいい」
日下部は言う。
「少なくとも、“なんであいつだけ”って考え続けるよりは楽になる」
生徒は立ち上がる。
「ちょっとスッキリしました」
ドアの前で振り返る。
「好かれてる人って、やっぱり理由あるんですね」
「だいたいある」
一拍おかずに答える。
「でも、それが正解とは限らない」
ドアが閉まる。
人が集まる理由はある。
でも、それに合わせるかどうかは別の話だ。






