テラーノベル
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屋上の風が強い。
フェンスが、ギシギシ鳴っている。
晴翔は、一歩後ろへ下がった。
目の前。
クラスメイト達。
美玲。
担任。
十数人。
全員、スマホを見ている。
その光が、顔を下から照らしていた。
異様なのに。
誰も異常だと思っていない。
担任が、静かな声で言う。
「友崎」
晴翔の喉が乾く。
「みんな心配してる」
嘘だ。
その言葉だけで分かる。
“心配”じゃない。
確認だ。
ちゃんと、排除される側になっているか。
晴翔は、無意識に瀬那のスマホを握りしめる。
その瞬間。
美玲の視線が、スマホへ落ちた。
表情が変わる。
「それ……」
小さい声。
担任も見る。
空気が止まる。
晴翔は気づく。
“持っているだけで危険”。
おすすめ欄。
それに逆らうもの。
消えたはずの痕跡。
全部、異常扱いされる。
ブッ。
全員のスマホ通知。
同時。
まるで合図みたいに。
クラスメイト達が、一斉に画面を見る。
そして。
空気が変わる。
さっきまでの戸惑いが消えた。
代わりに。
理解。
納得。
“処理方法が表示された顔”。
晴翔の背筋が冷える。
美玲が、震える声で言った。
「……離れた方がいいって」
「は?」
美玲は、スマホから目を離せない。
「晴翔と接触すると
認識異常が伝播するって……」
伝播。
感染。
またその言葉。
晴翔は、ゆっくり周囲を見る。
クラスメイト達も、ほぼ同じ画面を見ていた。
小さく表示される文字。
【正常な学習環境を維持してください】
【不要な関係性を検知】
【対象:友崎晴翔】
心臓が強く鳴る。
“不要”。
たったその一言で。
今までの全部が、切り捨てられる。
晴翔は、無意識に叫んでいた。
「俺は何もしてねぇだろ!!」
風が吹く。
誰も動かない。
「何でだよ!! 何で俺だけ!!」
担任が、静かに口を開く。
「馴染めなくなったからだ」
その瞬間。
晴翔の思考が止まる。
担任は、どこまでも普通の声で続ける。
「周囲と認識がズレた。
存在しない人物へ執着した。
正常な関係形成を妨げた」
まるで。
レポートを読むみたいに。
晴翔は、一歩後ろへ下がる。
「瀬那はいた」
掠れた声。
「いたんだよ」
誰も反応しない。
担任だけが、少し目を細めた。
「その名前は登録されていない」
登録。
人間なのに。
データみたいに。
その時。
瀬那のスマホ。
画面が勝手につく。
全員の視線がそちらへ向く。
動画アプリ。
ノイズ。
そして。
真っ黒な画面に文字。
【未修正データを検知】
空気が変わる。
クラスメイト達の表情が、初めて揺れた。
担任が、低い声で言う。
「それを渡せ」
晴翔は反射的に下がる。
「嫌だ」
その瞬間。
全員のスマホが、再び震えた。
ブブブブブッ!!
一斉通知。
美玲が、息を呑む。
クラスメイト達も、顔色を変える。
晴翔は、嫌な予感のまま自分の画面を見る。
おすすめ欄。
【“正常化を拒否した対象への対応”】
次。
【“複数人での隔離を推奨します”】
その瞬間。
一歩。
クラスメイト達が、同時に前へ出た。
晴翔の呼吸が止まる。
誰も怒っていない。
誰も叫ばない。
むしろ。
静かだった。
“正しいことをする顔”。
それが、一番怖かった。
コメント
1件
うわ、これは心臓にくる回でしたね…。システムが「正常」と「異常」を勝手に定義して、しかも全員がその判断を疑わずに動くというディストピア描写が、淡々とした文体で描かれるからこそ余計に怖かったです。特に担任の「馴染めなくなったからだ」という台詞と、最後の“正しいことをする顔”が一番怖いという一文が、この世界の本質を突いてるなと。晴翔が瀬那の存在を信じて抗う姿に、もっと読んで応援したくなりました。続きが気になります…!