テラーノベル
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一歩。
また一歩。
クラスメイト達が、ゆっくり近づいてくる。
誰も怒鳴らない。
誰も感情的じゃない。
静か。
その静かさが、異常だった。
晴翔は後ずさる。
屋上フェンスが背中に当たる。
冷たい。
逃げ場がない。
美玲が、苦しそうな顔で言った。
「晴翔」
「来んな」
掠れた声。
美玲の足が止まる。
でも。
周囲は止まらない。
担任が言う。
「抵抗しなくていい」
その声。
病院みたいだった。
“処置”。
“矯正”。
そんな響き。
晴翔は、瀬那のスマホを強く握る。
その瞬間。
画面がまた点灯する。
ノイズ。
ザザッ。
全員の動きが止まる。
動画アプリ。
勝手に再生。
暗い教室。
誰もいない。
そして。
画面奥。
窓際。
瀬那が立っていた。
今までで一番鮮明だった。
クラスメイト達がざわつく。
「誰……?」
小さい声。
美玲も、初めて“違和感”を持った顔になる。
晴翔の心臓が強く鳴る。
見えてる。
今、全員に見えてる。
瀬那が、ゆっくり口を開く。
『聞こえるか』
ノイズ。
『もう時間がない』
担任が、顔をしかめる。
「切れ」
誰に言ったのか分からない。
でも。
数人が反射的にスマホを操作し始める。
瀬那の映像が乱れる。
『こいつは――』
ノイズ。
『“普通”を固定する』
「瀬那!!」
瀬那の顔が、一瞬だけこちらを見る。
『おすすめじゃない』
『選別装置だ』
空気が凍る。
その瞬間。
全員のスマホ。
一斉更新。
ブブブブブッ!!
クラスメイト達が、また同時に画面を見る。
そして。
今度は、表情が完全に消えた。
感情が薄い。
晴翔の背筋が冷える。
まるで。
“同期された”。
おすすめ欄。
【認識補正を開始】
【不要データの再定義を実行】
その直後。
クラスメイト達が、同時に口を開いた。
「渡して」
声が揃っていた。
晴翔の呼吸が止まる。
「それを渡して」
また。
全く同じ声。
美玲まで。
同じ抑揚。
同じタイミング。
人間じゃないみたいに。
晴翔は、恐怖で一歩下がる。
フェンス。
もう後ろがない。
担任が、ゆっくり近づく。
「それを保持している限り、お前は更新されない」
更新。
晴翔は、震える声で聞く。
「……更新って何だよ」
担任は即答した。
「正常になることだ」
その言葉。
あまりにも自然だった。
だからこそ怖い。
「瀬那を消すことが?」
担任は少し首を傾げる。
「最初から存在しない」
「いた!!」
叫び。
風が吹く。
その瞬間。
瀬那のスマホ。
映像が大きく乱れる。
ザザザザッ!!
そして。
一瞬だけ。
別の映像。
教室。
黒板。
そこに、大量の名前が並んでいた。
赤線で消されている。
一つずつ。
知らない名前。
知らない顔。
でも。
最後。
一番下。
『瀬那 柊』
そして。
そのすぐ下。
今まさに追加される文字。
『友崎 晴翔』
晴翔の血の気が引く。
その瞬間。
瀬那が叫んだ。
『見るな!!!』
ブツッ!!
画面が完全に落ちる。
同時に。
クラスメイト達が、一斉に晴翔へ手を伸ばした。
コメント
1件
うわあ、第20話すごかった……。「全員の声が揃う」描写、鳥肌立ちました。スマホのアップデートで“普通”に上書きされる感覚、SFホラーとしてめちゃくちゃ嵌まってる。瀬那の「見るな!!」のタイミングも最高。続き、めちゃくちゃ気になります。