テラーノベル
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蒼の部屋に集まる人数は、少しずつ増えていた。
最初は三、四人だった。
それが、いつの間にか十人近くになる日もある。
誰かが誰かを連れてくる。
理由は単純だった。
「蒼の犬、見た?」
その一言で興味を持つ人間がいるからだった。
その夜も、部屋は人でいっぱいだった。
靴が玄関に溢れている。
部屋の中は酒の匂いと煙草の匂いで重い。
凪はドアの横に座っていた。
もう誰も指示しない。
そこが凪の場所だと、自然に決まっていた。
蒼はベッドに寄りかかって座っている。
その隣に沙希。
沙希は凪を見て、少し笑った。
「今日もいるんだ」
凪は頷く。
「うん」
それだけだった。
しばらくして、男の一人が言った。
「ねえ」
グラスを回しながら。
「どこまでやるの?」
その質問は、凪に向けられたものじゃない。
蒼に向けられていた。
部屋の視線が蒼に集まる。
蒼は少しだけ考える。
それから凪を見る。
「犬」
凪はすぐ反応する。
「うん」
蒼は言う。
「来い」
凪は立つ。
部屋の中央まで来る。
みんなの視線が集まる。
それはもう、隠そうとしていない視線だった。
興味。
面白がり。
試したい気持ち。
そういうものが混ざっている。
蒼はゆっくり言う。
「座れ」
凪は床に座る。
蒼は少し首を傾ける。
「違う」
それから、手で床を叩く。
「四つん這い」
部屋の空気が少しだけ震える。
笑い声が漏れる。
凪は数秒止まる。
でも、ゆっくりと手を床につく。
膝もつく。
四つん這いになる。
誰かが小さく吹き出す。
「うわ」
「マジか」
スマホを出す音がする。
蒼はそれを気にしない。
ただ凪を見ている。
それから言う。
「歩け」
凪は一歩動く。
フローリングの床に手のひらが触れる音がする。
蒼は指で床を叩く。
「こっち」
凪は近づく。
蒼の足元まで来る。
蒼は足を少し上げる。
凪の肩に乗せる。
そのまま体重を預ける。
部屋の空気が変わる。
誰も止めない。
むしろ、誰かが言う。
「すげえ」
蒼は足を乗せたまま、凪を見下ろす。
「重い?」
凪は首を振る。
「大丈夫」
蒼は少し笑う。
「強いな」
それから、ゆっくり体重を増やす。
凪の肩が少し下がる。
でも、崩れない。
蒼はそれを見ている。
長い時間。
試すみたいに。
蒼の隣で、沙希が笑った。
「ほんと犬」
その言葉で、笑いが広がる。
誰かが言う。
「蒼。
すげえ飼い方してる」
蒼は答えない。
ただ、凪を見ている。
凪の呼吸が少し速い。
でも、逃げない。
顔も上げない。
ただ、蒼の足を支えている。
数分後、蒼は足を下ろす。
凪の肩から重さが消える。
凪はそのままの姿勢で止まっている。
蒼は言う。
「戻れ」
凪はゆっくり座る。
さっきまでの場所。
ドアの横。
部屋の空気は、また元に戻る。
酒の音。
笑い声。
会話。
でも、さっきまでと少し違う。
誰も言葉にしないけれど、みんな同じことを思っている。
もっと見たい。
蒼がどこまでやるのか。
凪がどこまでやるのか。
それが、この部屋の一番面白いものになっていた。
蒼はグラスを持ち上げる。
氷が鳴る。
そして、小さく言った。
「ほんと…… 壊れねえな」
きょRa
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