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ドアが開く。
相談者は曖昧な顔で言った。
「嫌われてはないと思うんだけど、好かれてる感じもしない……」
蓮司は椅子を引く。
「どの辺でそう思う」
「普通に話すし、避けられてもない。
でも“わざわざ選ばれてる感じ”がない」
「向こうから来ることは?」
「ほぼない。こっちから行けば普通に話す」
蓮司は座る。
「“受け入れられてるけど、選ばれてない”状態だな」
相談者は黙る。
「……それだ」
少し沈黙。
「何が足りないんだと思う」
「分からない。普通にしてるだけじゃダメなのかってなる」
蓮司は机に指を置く。
「“普通”は維持には使えるけど、選ばれる理由にはならない」
相談者は眉を寄せる。
「じゃあ何がいるの」
「偏り」
「偏り?」
「誰に対しても同じだと、“特別に選ぶ理由”がない」
相談者は黙る。
「今、多分どこにでも同じ距離でいる」
「……いるかも」
間。
「じゃあどうすればいい」
「一人だけ、扱い変える」
相談者は少し戸惑う。
「露骨じゃない?」
「露骨でいい。
全員にやる必要ない」
少し沈黙。
「どう変える」
「話す回数増やすでもいいし、
話題を少し深くするでもいい」
「一人に寄せるのか」
「そう。そこで初めて“選んでる状態”になる」
間。
「でもそれって依存っぽくない?」
「全員に均等よりは健全」
相談者は苦笑する。
「意外……」
「人間関係は均等じゃない」
少し沈黙。
「なんかさ」
「何」
「嫌われないようにしてたら、
誰からも特に必要とされてない感じになってた」
「そういうことだな」
相談者は小さく息を吐く。
「あともう一個」
「何」
「“来ない=好かれてない”で固定するな」
相談者は顔を上げる。
「違うの?」
「“来なくても成立してる”場合もある」
間。
「それって良いの?」
「安定ではある。
ただ、動きは生まれにくい」
相談者は黙る。
「動き欲しいなら、自分で偏らせるしかない」
少し沈黙。
相談者はゆっくり頷く。
ドアの前で立ち止まる。
「一人だけ、変えるか」
「それでいい」
ドアが閉まる。
嫌われないことと、選ばれることは別だ。
均等でいる限り、関係は動かない。
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