テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#読み切り
ruruha
1,191
み う .
眠狂四郎
748
464
ドアが開く。
相談者は席に座ると、少し申し訳なさそうに笑った。
「人の話を聞いてるつもりなのに、気づいたら別のこと考えてる時があるんだ」
蓮司は椅子を引いて座る。
「いつ気づく」
「話しかけられた時。『聞いてる?』って言われて、はっとする」
「内容は覚えてない?」
「最初は覚えてる。でも途中から抜ける」
少し間が空く。
「興味がない話か」
相談者は首を振った。
「そうでもない。仲いい友達でもなる」
蓮司は少し考えた。
「考え事って、何を考えてる」
「その時による」
「例えば?」
「今日の予定だったり、この前言ったこと思い出したり、『今なんて返そう』って考えたり」
蓮司は軽く頷いた。
「話を聞きながら、次のこと考えてるんだな」
「そうかも」
静かな時間が流れる。
「それって失礼だよな」
相談者がぽつりと言う。
「失礼だと思うなら、直したいのか」
「直したい」
「じゃあ一つ聞く」
蓮司は相談者を見る。
「考え事を始めようと思って始めてるか」
相談者は少し笑った。
「いや、勝手に始まる」
「だったら最初から全部コントロールできるものじゃない」
相談者は黙った。
「でも、周りはちゃんと聞けてる気がする」
「そう見えるだけかもしれない」
「みんなもなる?」
「なるやつはなる」
少し間が空く。
「人の話って、耳だけで聞いてるわけじゃない」
相談者は首を傾げる。
「どういうこと」
「聞きながら考える」
「うん」
「思い出す」
「うん」
「理解する」
「うん」
「返事も考える」
「うん」
「頭の中は結構忙しい」
相談者は苦笑した。
「確かに、一個しかやってない感じじゃない」
「だから時々、考え事の方が前に出る」
少し沈黙が流れる。
「じゃあ、話を聞くのが下手ってわけじゃない?」
「それだけでは決まらない」
「でも内容が飛ぶ」
「飛んだら聞き返せばいい」
相談者は少し驚く。
「それだけ?」
「分かったふりする方が困る」
相談者は笑った。
「確かに」
蓮司は続ける。
「ちゃんと聞かなきゃって思うほど、一字一句覚えようとするやつもいる」
「それ、自分だ」
「全部残そうとすると、途中で頭がいっぱいになる」
相談者は黙る。
「なるほど」
「全部覚えるより、何を伝えたい話なのかを聞く方が楽だ」
少し静かになる。
相談者は机の上に視線を落とした。
「何か安心した」
「何が」
「聞いてない人間なんじゃなくて、頭が勝手に動いてるだけなのかもって」
蓮司は頷いた。
「もちろん、相手を大事にする気持ちは必要だ。でも、一瞬考え事をしただけで、人の話を聞けない人間になるわけじゃない」
相談者はゆっくり立ち上がる。
ドアの前で振り返った。
「今度から分からなくなったら、聞き返す」
「その方が相手も助かる」
相談者は小さく笑い、部屋を出ていった。
ドアが閉まる。
人の話を聞いている途中で、ふと考え事をしてしまうことはある。
大事なのは、一度もそれをしないことではなく、気づいた時に相手へ意識を戻せることなのかもしれない。
コメント
1件
いやー、この話めっちゃ沁みたわ。途中で考え事が勝手に始まる感覚、めっちゃ分かる。「全部覚えようとすると頭がいっぱいになる」って蓮司の言葉、すごく優しくてグッときた。ちゃんと聞かなきゃって思うほど逆効果になるって、そういうもんだよな。聞き返すのOKって言われて相談者が安心したのが伝わってきて、こっちまでほっとした。心の仕組みを解像度高く描いてくれる回、好きだわ🔥