テラーノベル
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放課後。
人が減り始めた教室。
ドアが開く。
「今、いい?」
「ああ」
日下部は机に肘をついている。
生徒は少し迷ってから座る。
「別に、嫌なことがあったわけじゃないんです」
「うん」
「前は普通だったのに」
少し間。
「急にしんどくなった」
日下部は視線を上げる。
「何が」
「学校」
短い沈黙。
「朝起きるのも嫌だし」
机を見つめる。
「行けば普通なんです」
「行けば」
「話すし、授業も受けるし」
少しだけ声が小さい。
「でも帰ると、もう無理ってなる」
静か。
「前はそんなことなかったのに」
日下部は頷く。
「あるな」
生徒は少し顔を上げる。
「あります?」
「ある」
間。
「壊れた感じがするか」
生徒は少し止まる。
「……はい」
「前に戻らない感じ?」
小さく頷く。
日下部はゆっくり言う。
「慣れが切れただけだ」
「慣れ」
「ずっと耐えてると、平気に見える時期がある」
生徒は黙って聞く。
「でも容量は減ってく」
「減るんですか」
「使ってるからな」
即答。
「前は大丈夫だったのにってやつは、だいたいそれだ」
沈黙。
「戻りますか」
「戻ることもある」
一拍。
「でも同じ形じゃない」
静か。
「どうすればいいですか」
日下部は少し考える。
「まず、前と比べるのやめろ」
「……」
「前はできた、は一番削れる考え方だ」
生徒は視線を落とす。
「弱くなった気がして」
「弱くなってない」
即答。
「見えるようになっただけだ」
静けさ。
「無理の量が分かっただけ」
間。
「それって、悪いことですか」
「むしろマシだ」
短く言う。
「気づかないまま行くと、急に折れる」
生徒は少し息を吐く。
「……なんか安心しました」
「ならいい」
ドアの前で止まる。
「前に戻らなくてもいいんですか」
日下部は少し考える。
「戻らない方が普通だ」
一拍。
「次の形になるだけだ」
ドアが閉まる。
前は平気だったのに苦しくなるのは、
壊れた証拠じゃなくて、
限界が見えた証拠かもしれない。
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