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キッチンの窓から差し込む朝の光が、湯気の向こうでゆらめいていた。
アレクシスは片手でマグを持ち、もう片方でゆるく髪を結ぶ。淡い金色の髪が光を受けて透け、まるで朝そのものがそこに立っているみたいだった。
「おはよう、アレク」
真白が寝ぼけまなこのまま、テーブルに顔を突っ伏す。
「……まだ寝てるの?」
「起きてる。半分くらい」
アレクシスがくすっと笑い、トーストを皿に載せて彼の前へ。
シェアハウスの朝は、いつも静かだ。二人分のカップの音と、トースターの軽い弾ける音。
誰も急かさず、誰も責めない。時間だけが、穏やかに流れていく。
「今日さ、午後から雨らしいよ」
「じゃあ……洗濯、午前中に済ませなきゃね」
「一緒に干す?」
「……アレクがやると、服が綺麗に並びすぎて落ち着かないんだよな」
「几帳面って褒め言葉だと思ってたけど?」
アレクシスが肩をすくめて笑うと、真白もつられて小さく息を漏らした。
その笑い声が、カーテン越しの光を優しく揺らす。
季節の変わり目の朝――
なんでもない会話が、今日という一日の始まりを告げていた。
ふと、アレクシスがマグを置き、真白の髪に手を伸ばす。
「寝癖、ついてる」
「え、うそ」
「ここ。直してあげる」
指先が軽く触れる。ほんの一瞬のことなのに、真白は動けなくなった。
「……もう直った」
「……ありがと」
短いやり取りのあと、また静寂が戻る。
けれどその沈黙は、気まずさではなく、居心地のいい“間”だった。
窓の外では、最初の雨雲がゆっくりと空を覆い始めている。
ふたりの朝は、今日も変わらず、やさしく続いていく。