テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
放課後。
ドアがノックもなく少しだけ開く。
「……いいですか」
「どうぞ」
生徒は入ってきて、椅子に座る。背もたれには寄りかからない。
「クラスで、誰かがいじられてるとき」
「うん」
「周り、だいたい笑うじゃないですか」
日下部は頷く。
「自分、あれ笑えないんです」
間を置かずに続ける。
「でも、笑わないと」
言葉が少し詰まる。
「浮く感じがして」
視線が揺れる。
「“なんで笑わないの?”みたいな空気になるのが嫌で」
小さく息を吐く。
「結局、ちょっとだけ笑っちゃうんです」
日下部はそのまま聞く。
「で、あとでめちゃくちゃ気持ち悪くなる。自分、何やってんだろって」
短く言う。
日下部は少しだけ考える。
「それ、二つの圧がかかってる」
生徒が顔を上げる。
「二つ」
「一つは、同調圧力」
短く言う。
「場に合わせろってやつ」
生徒は頷く。
「もう一つ」
「はい」
「自己一致」
生徒は少し戸惑う。
「なんですかそれ」
「自分の中の“これは違う”って感覚」
日下部は言う。
「それとズレると、気持ち悪くなる」
生徒は黙る。
「だから今」
続ける。
「外に合わせて、内側とズレてる状態」
生徒は小さく頷く。
「……それです」
日下部は言う。
「どっちかに寄せないと、ずっとしんどい」
生徒は少し考える。
「でも、どっちもきついです」
「だろうな」
否定しない。
「じゃあ、間を取る」
生徒は顔を上げる。
「間?」
「笑わないけど、止めない」
短く言う。
「無表情で流す」
生徒は少し驚く。
「それアリなんですか」
「アリ」
即答する。
「“同調しないけど敵対もしない位置”」
10
生徒は考える。
「それなら……できるかもです」
「もう一個」
日下部は続ける。
「リアクションを薄くする」
「薄く?」
「小さく笑うとか、すぐ視線外すとか」
短く言う。
「完全に乗らない形」
生徒はゆっくり頷く。
「ゼロか百じゃなくていいんですね」
「そう」
日下部は言う。
「同調圧力は、“全部合わせるか全部逆らうか”に見せてくる」
少しだけ間を置く。
「でも実際は、その間がある」
生徒は立ち上がる。
「ちょっと楽になりました」
ドアの前で振り返る。
「笑わないだけでアウトだと思ってました」
「そこまで単純じゃない」
短く答える。
ドアが閉まる。
合わせるか逆らうかじゃなく、
その間の立ち位置も選べる。