テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
まきぴよ
129
放課後前。
チャイムが鳴る直前、遥の机の横に、
小さく折られた紙が落ちた。
――体育倉庫。来い。
相手の名前は書いていない。
でも、呼び出した連中が誰かは遥にはわかる。
逃げれば“もっと大きな罰”。
それも、何度も味わってきた。
遠くで女子たちの笑い声が聞こえる。
あの写真が原因だと、すぐわかった。
歩くたび、
“何が起きてもおかしくない”独特の空気が胸にまとわりついた。
体育倉庫に入った瞬間、
背後の扉が乱暴に閉められた。
「来たな」
リーダー格の陰キャ男子が、暗がりから歩み寄る。
その目は怒っていない。
怒りよりももっと濁った、
“自分より下を確かめたい”衝動だけが沈んでいる。
「……何だよ。今日も……?」
遥が言い切る前に、
後ろから腕をねじ上げられた。
「“今日も”じゃねぇだろ、お前。
女に囲まれて……調子乗ってんじゃね?」
押しつけられた腕が、ギリギリと痛む。
「囲まれてねぇよ……」
「はぁ?写真に残ってんだよ。
耳、やられてたじゃん」
ほかの男子が割り込む。
「お前みたいなゴミがさ、
女子にあんなことされて……不快なんだけど」
「“下”は下らしくしてろよ」
チッ、と誰かが舌打ちする。
暴力は、叫びも脅しもなく始まった。
胸ぐらをつかまれ、
ベニヤ板に背中を叩きつけられる。
ドンッ。
その音だけが倉庫に響いた。
「……っぐ……!」
遥がうずくまろうとすると、
誰かの足が脇腹を蹴り上げた。
「女と遊ぶ暇あんだな?」
もう一発。
腹に深くめり込む。
「声出すなよ。
誰も助けねぇから」
リーダーが、遥の口元を指でつまんで笑った。
「リップ残ってんじゃん。
ほんとに“してもらった”んだ?」
「違ぇって……あれは……!」
「言い訳いらねぇ。
ムカつくから殴ってんだよ」
もう一人が、遥の髪を後ろに引っ張った。
「女子に耳やられて嬉しかった?」
「どんな声出した?」
遥は必死に首を振る。
「やめろ……マジで……!」
「やめるわけねぇだろ」
腹、脇腹、背中。
狙う場所が変わるたび、痛みの質も変わった。
殴ったあと、わざと間を開ける。
遥が息を整え始める頃――
再び、無言の拳が落ちる。
暴力を楽しんでいるわけではない。
“自分たちより下だ”と確かめるための作業。
その温度の低さが、遥の恐怖をさらに膨らませた。
陰キャの一人が、
スマホ画面を遥の顔に突きつけた。
そこには女子が遥に密着している写真。
「なぁ……これ、
どう見ても“やってる”よな?」
「羨ましがらせたいの?
自分だけ女に触られて」
「お前、何様?」
「……あれは……違う……!」
「“違う”なら証明しろよ」
誰かの足が、遥の太ももを蹴り抜いた。
力は軽い。だが感情は濃い。
「女子に優しくされて、嬉しくて震えたって?」
「耳、かじられて……興奮した?」
「次、俺らがやったらどうする?」
遥は震えた。
答えれば“終わる”。
黙っても“終わる”。
言葉が詰まった喉を見て、
男子たちは満足したように笑う。
「ほら、やっぱ“そういうの”好きなんじゃん」
「下が勘違いすんなよ」
最後に、脇腹への一蹴り。
空気が肺から漏れた。
男子たちは足早に倉庫を出ていく。
遥を転がしたまま、
扉を半開きにして。
去り際、ひとりが低く呟いた。
「明日も呼ぶから。
ちゃんと“下のまま”来いよ」