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放課後前。
チャイムが鳴る直前、遥の机の横に、
小さく折られた紙が落ちた。
――体育倉庫。来い。
相手の名前は書いていない。
でも、呼び出した連中が誰かは遥にはわかる。
逃げれば“もっと大きな罰”。
それも、何度も味わってきた。
遠くで女子たちの笑い声が聞こえる。
あの写真が原因だと、すぐわかった。
歩くたび、
“何が起きてもおかしくない”独特の空気が胸にまとわりついた。
体育倉庫に入った瞬間、
背後の扉が乱暴に閉められた。
「来たな」
リーダー格の陰キャ男子が、暗がりから歩み寄る。
その目は怒っていない。
怒りよりももっと濁った、
“自分より下を確かめたい”衝動だけが沈んでいる。
「……何だよ。今日も……?」
遥が言い切る前に、
後ろから腕をねじ上げられた。
「“今日も”じゃねぇだろ、お前。
女に囲まれて……調子乗ってんじゃね?」
押しつけられた腕が、ギリギリと痛む。
「囲まれてねぇよ……」
「はぁ?写真に残ってんだよ。
耳、やられてたじゃん」
ほかの男子が割り込む。
「お前みたいなゴミがさ、
女子にあんなことされて……不快なんだけど」
「“下”は下らしくしてろよ」
チッ、と誰かが舌打ちする。
暴力は、叫びも脅しもなく始まった。
胸ぐらをつかまれ、
ベニヤ板に背中を叩きつけられる。
ドンッ。
その音だけが倉庫に響いた。
「……っぐ……!」
遥がうずくまろうとすると、
誰かの足が脇腹を蹴り上げた。
「女と遊ぶ暇あんだな?」
もう一発。
腹に深くめり込む。
「声出すなよ。
誰も助けねぇから」
リーダーが、遥の口元を指でつまんで笑った。
「リップ残ってんじゃん。
ほんとに“してもらった”んだ?」
「違ぇって……あれは……!」
「言い訳いらねぇ。
ムカつくから殴ってんだよ」
もう一人が、遥の髪を後ろに引っ張った。
「女子に耳やられて嬉しかった?」
「どんな声出した?」
遥は必死に首を振る。
「やめろ……マジで……!」
「やめるわけねぇだろ」
腹、脇腹、背中。
狙う場所が変わるたび、痛みの質も変わった。
殴ったあと、わざと間を開ける。
遥が息を整え始める頃――
再び、無言の拳が落ちる。
暴力を楽しんでいるわけではない。
“自分たちより下だ”と確かめるための作業。
その温度の低さが、遥の恐怖をさらに膨らませた。
陰キャの一人が、
スマホ画面を遥の顔に突きつけた。
そこには女子が遥に密着している写真。
「なぁ……これ、
どう見ても“やってる”よな?」
「羨ましがらせたいの?
自分だけ女に触られて」
「お前、何様?」
「……あれは……違う……!」
「“違う”なら証明しろよ」
誰かの足が、遥の太ももを蹴り抜いた。
力は軽い。だが感情は濃い。
「女子に優しくされて、嬉しくて震えたって?」
「耳、かじられて……興奮した?」
「次、俺らがやったらどうする?」
遥は震えた。
答えれば“終わる”。
黙っても“終わる”。
言葉が詰まった喉を見て、
男子たちは満足したように笑う。
「ほら、やっぱ“そういうの”好きなんじゃん」
「下が勘違いすんなよ」
最後に、脇腹への一蹴り。
空気が肺から漏れた。
男子たちは足早に倉庫を出ていく。
遥を転がしたまま、
扉を半開きにして。
去り際、ひとりが低く呟いた。
「明日も呼ぶから。
ちゃんと“下のまま”来いよ」