テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
その日の昼休み、空気が変わった。
教室のあちこちで、女子たちの笑い声が妙に鋭く響く。
誰と何を笑っているのか、分からない。
ただ、遥の名前がさりげなく混ざる。
「ねぇ、見た? さっきの……あれ」
「やっぱ遥って、そういうの慣れてないんだね〜」
声は明るい。
けれど、明るさの奥に“悪意だけ”がある。
女子たちは、わざと男子の前で、
――遥が女子に“されていた”みたいに
聞こえるような話し方をする。
「ほら、あのときのさ、
キスしてあげたら顔真っ赤になっちゃって」
「ねぇ、男子ってああいう反応好きでしょ?
あれ、可愛くない?」
実際には、キスなんてしていない。
寸前で止めて嘲っただけだ。
けれど、女子たちは“してやった体”で話し始める。
男子たちはもう止まらない。
「え、マジ? 遥ってそんなキャラだっけ?」
「女子に囲まれて喜んでたって聞いたけど?」
「それであの顔? うわ、チョロすぎだろ」
女子たちは、驚いて見せた男子の反応を楽しみながら、
さらに大げさに話を盛っていく。
「だってさ、押されたら何もできなかったんだよ?
ね、可愛くない?」
「ちょっと触っただけで固まってたし〜」
“触った”だけを勿体ぶるように言い、
男子の想像力に投げ込むように笑う。
男子は男子で、その曖昧さを勝手に補い始める。
「そういうタイプだったんだな、遥」
「ウブっていうか……下手に女子慣れしてないのが逆にキモくね?」
「上手く扱えばいくらでも弄れそう」
プリントを配りに来た男子も、
部活帰りの上級生も、
ただ通りがかっただけのクラスの男子も。
女子の“わざとらしい噂”が
耳に入るたび、自然と視線が遥に向く。
軽蔑でもない。
怒りでもない。
ただ、浅く軽い嘲笑が、波紋のように広がっていく。
「女子の言うこと、ガチで間に受けてんのかな」
「ちょっと優しくされたら、惚れたとか思ってそう」
「いやキモいって、それは」
遥は、何もしていない。
何も望んでいない。
ただ、巻き込まれただけだ。
だけど今、
教室中の男子が彼を“笑いものとして見る”準備を整えている。
女子の作った“脚色されたストーリー”に、
男子の雑な想像が上乗せされ、
遥を追い詰める新しい構造が完成していく。
誰も本当のことを確認しない。
誰も真実を知ろうとしない。
ただ、
遥は下。
女子に遊ばれて、男子に笑われて当然の位置。
それを確認するためだけに、
曖昧で刺激的な噂だけが一人歩きする。
そして――
その歪んだ噂はすぐに陰キャたちの耳にも届き、
彼らの妄想と暴力を“正当化”する燃料となる。