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階段から転げ落ちたあとも、休ませてもらえる余地はなかった。
「次。四つん這いになれ」
同学年の声が飛ぶ。笑い声の渦の中、膝を擦りながらも這わされる。
「……いや、やめて……」
小さく掠れた抗議。だが靴底が背中に叩き込まれる。肺から空気が絞り出されるように、遥の喉から呻きが漏れる。
「“やめて”じゃねえ。吠えろ。ワンって言え」
「ワン……」
乾いた声で搾り出すと、ざわめきがさらに膨らむ。
「聞こえねーぞ!」
再び蹴りが入る。
「わ……ワンッ!」
喉が裂けるように声が出た瞬間、拍手と爆笑が階段の上下に響いた。
誰かが廊下からバケツを持ってきた。中身は冷水ではなく、雑巾をすすいだ汚水だ。
「ほら、特製スープだ。飲め」
顎を掴まれ、鼻をつままれ、無理やり流し込まれる。
「……や、やめ……うぇっ……!」
喉に泥臭さが広がり、涙が勝手に滲む。吐き出すと床に汚れが飛び散り、すかさず数人の先輩に髪を鷲づかみにされて床に叩きつけられる。
「こぼすなって言ってんだろ!」
「すみません……ごめんなさい……」
唇が震える。屈辱と痛みに滲んだ言葉は、またも笑い声にかき消される。
さらに誰かが思いついたように叫んだ。
「次はこいつを持ち上げろ!胴上げだ!」
数人の腕に無理やり掴まれ、遥の体が宙に放り投げられる。
「やっ……!いやだっ!」
必死の悲鳴。だが床に背中から叩きつけられる音が廊下に響くように広がり、観客のような生徒たちの歓声は止まらなかった。
「ほら、もっとやろうぜ!今日は壊れるまで!」
遥はただ、痛みの隙間から震えながら吐き出した。
「……もう……壊れてる……」
しかし、その声を拾う者はひとりもいなかった。