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王太子が初めて“色”を出したのは、三歳のときだった。
大広間で転んだ。
石の床に膝を打つ。
一瞬の沈黙。
次の瞬間、彼の周囲に金色が弾けた。
「……おお」
周囲の大人がざわめく。
王子の感情は、強い色になることが多い。
だが、これほどの金色は珍しい。
まだ三歳。
それなのに、部屋の空気が温かくなるほどの輝きだった。
「殿下」
侍従が膝をつく。
「お怪我は?」
王子は膝を見下ろす。
少し赤い。
「痛い」
「すぐ手当てを」
「でも」
彼は周囲を見る。
大人たちは笑っている。
誇らしそうに。
「金色だ」
「素晴らしい」
「将来が楽しみだ」
王子は小さく首をかしげる。
「……金色?」
侍従が説明する。
「喜びや愛情が強いと、金色になります」
「これは?」
「とても良い色です」
王子はもう一度膝を見る。
痛みはある。
だが、周りが喜んでいる。
「じゃあ」
彼は立ち上がる。
「いいこと?」
「ええ、とても」
王子は少し考える。
そして、もう一度わざと床に座る。
コツン。
痛い。
また金色が弾ける。
周囲が笑う。
「また出た」
「さすが王子だ」
王子は理解する。
この色は、褒められる。
それからしばらく。
王子はよく金色を出した。
褒められるから。
喜ばれるから。
教師が言う。
「素晴らしい感受性です」
学官が記録する。
「歴代でも高出力」
王は満足そうに頷く。
ある日、家庭教師が尋ねた。
「殿下は何を愛していますか」
王子は考える。
好きなもの。
パン。
剣。
馬。
だが答える前に、教師が続ける。
「愛は国の力になります」
王子は聞く。
「どうして?」
「王妃が強く愛すると、星が生まれます」
教師は窓を指さす。
夜空。
金色の星。
「あれは王妃の愛です」
「全部?」
「記録されているものは」
王子は空を見る。
たくさんある。
「すごい」
「はい」
教師は微笑む。
「殿下の愛も、いつか国を支えます」
王子は少し黙る。
「どうやって?」
「愛する人を見つけるのです」
簡単に言う。
王子はうなずく。
それが役目だと理解する。
その夜。
王子は一人で空を見る。
金色の星。
美しい。
だが、ふと思う。
もし。
愛がない人がいたら?
星は生まれない。
その人は、どうなる?
王子はその考えを誰にも言わない。
ただ、空を見続ける。
金色は胸にある。
強く、明るく。
だが彼は、まだ知らない。
いつか。
色を持たない少女に出会うことを。
そして。
その透明な存在が、自分の金色を変えてしまうことを。