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ドアが開く。
相談者は目を合わせずに言った。
「一緒にいるのに、会話入れないときある」
蓮司は椅子を引く。
「どんな場面」
「休み時間とか。みんなで集まってて、笑ってるのに、入るタイミング分かんない。無理に入るとズレるし、黙ってるとそのまま終わる」
「誰か一人となら話せる?」
「話せる。でもグループになると無理」
蓮司は頷く。
「それ、能力の問題じゃない。役割の問題」
「役割?」
「グループには“回すやつ”“拾うやつ”“リアクションするやつ”がいる。お前は多分、観測側に寄ってる」
「観測?」
「流れ見て、空気読んで、ズレないようにしてる。だから入る瞬間が遅れる」
相談者は苦く笑う。
「当たってる」
「で、遅れた分だけ“もういいや”になる」
「なる」
少し沈黙。
「じゃあどうすればいい」
「二択。役割を変えるか、入口を変えるか」
「役割変えるって?」
「“拾う側”に回る。話題を出すんじゃなくて、誰かの話に一言だけ足す」
「一言?」
「長く話そうとするな。“それ分かる”とか“それ昨日も言ってたやつ?”とか。5秒でいい」
「それならいけるかも」
「会話は参加時間の長さじゃなくて、接触回数」
相談者は少し顔を上げる。
「入口は?」
「グループ全体じゃなくて、一人に向けて話す」
「でも周りいる」
「いい。最初は“隣の一人”にだけ通す。そこから横に広がる」
「全員に向けてた」
「だから重くなる。全員に通す話し方は、最初からハードル高い」
相談者は机を軽く叩く。
「確かに、発表みたいになってた」
「あとタイミング」
「またタイミングか」
「笑いのあと、0.5秒。完全に静かになる前に差し込め」
「そんな細かいの分かる?」
「最初は無理。でも“終わりきる前に一言”って覚えとけ」
少し間。
空気が少し軽くなる。
「もし、入っても反応薄かったら?」
「普通。気にすんな。全発言がウケるやつなんていない」
「でもスベるときつい」
「スベる=失敗じゃない。存在が見えたってこと」
相談者は小さく笑う。
「ハードル低いな」
「低くしないと続かない」
立ち上がる。
ドアの前で振り返る。
「今日やるなら?」
「隣の一人に、一言だけ。長く話さない」
「それでいい?」
「それで十分」
ドアが閉まる。
グループに入るのは、大きな一回じゃない。
小さい接触の積み重ねだ。
#読み切り