テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
王族会議は、光に満ちていた。
長卓を囲む王族たちの胸元から、金色が立ちのぼる。
誇り、使命、そして――保身。
その色は濃い。
揺らぎもなく、均質だ。
「無色の婚約者について、再検討が必要です」
最年長の王族が口を開く。
「記録不能の星が現れて以降、既存の星の出力が微弱ながら低下している」
天文資料が卓上に並ぶ。
数値は小さい。
だが確かに、金色の波形はわずかに弱まっている。
「偶然とは言い切れぬ」
「無色は定義外。定義外は不安定要素だ」
「王妃は国力の源泉。愛を持たぬ存在に務まるのか」
視線が一斉に向く。
王太子へ。
彼は沈黙している。
金色は整っている。
王の後継者として完璧な色。
「殿下のご見解を」
求められるのは、断罪か、擁護か。
だが彼はすぐには答えない。
思い出すのは、観測塔での夜。
踊りの距離。
“選び続ける”という声。
「……現段階で因果は証明されていない」
まずは理性。
「よって、排除を決定する根拠は不足している」
慎重な言い回し。
「だが否定もできぬ」
鋭い返し。
「国家は安定を最優先とする。前例のない王妃は、賭けだ」
「愛を持たぬ王妃など、象徴になり得ぬ」
愛。
それが国是。
「殿下」
静かな声。
「あなたは、あの娘を愛しておられるのか」
空気が変わる。
個人的感情への踏み込み。
彼の金色が、一瞬揺れかける。
だが抑え込む。
「本件は私情とは無関係だ」
冷静な声。
「王妃の条件は国家的機能に基づくべきだ」
自分に言い聞かせるように。
「ならば答えは明白」
年長の王族が言う。
「愛を持たぬ者は、星を生まぬ。星を生まぬ王妃は、国を強めぬ」
理屈としては正しい。
これまでの歴史が証明している。
「無色は欠陥だ」
断言。
会議室の金色が強まる。
結論へ向かう色。
王太子の喉がわずかに動く。
彼は分かっている。
ここで感情を出せば、逆効果だ。
彼女を守るには、理で戦うしかない。
「星の本質が愛であるという前提自体が、再検証対象だ」
静かな反論。
「記録不能の光は、既存理論では説明できない」
「だからこそ危険だ」
「未知は排除すべきだ」
多数の声。
金色が一斉に傾く。
彼は、拳を握る。
心の奥では、別の声がある。
――彼女を失いたくない。
だがそれを言えば、終わる。
「……最終判断は、国王陛下に委ねられる」
会議は一旦、保留となる。
だが空気は決して彼女に有利ではない。
散会。
王太子は一人、回廊を歩く。
壁の窓から夜空が見える。
透明な星は、今夜もある。
誰にも認められない光。
「欠陥、か」
低く呟く。
彼女の無色を、欠陥と呼ぶ声。
だが自分は知っている。
彼女は欠けていない。
ただ、揺れないだけだ。
「……私は」
言葉が喉に詰まる。
王としてではなく。
一人の男として。
彼は彼女を求めている。
だが会議室では沈黙した。
守るための沈黙。
それが、彼女をより孤立させるかもしれないと知りながら。
そのとき。
透明な星が、強く明滅した。
まるで、彼の迷いに応じるように。
「……見ているのか」
観測不能の光。
記録されない想い。
国家は愛を数値化する。
だが今、彼の胸にあるものは。
数値にも、色にもならない。
それでも確かに。
彼は彼女を選んでいる。
ただ、声にできないだけで。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!