テラーノベル
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ドアが開く。
「……ここ、相談って」
「どうぞ」
入ってきた生徒は、椅子に座る前に一度止まる。
座ってからも、すぐには話さない。
「なんか」
少し笑ってしまうみたいに息を吐く。
「自分、ずっと“後回し”なんです」
日下部は目線を上げる。
「後回し?」
「プリントとかもそうなんですけど」
指先をいじる。
「やらなきゃいけないこととか、言わなきゃいけないこととか」
「うん」
「全部、あとでいいやってなって」
少し間。
「気づいたら全部“あとで”になってるんです」
視線が落ちる。
「で、結局ギリギリになってから焦る」
短く息を吐く。
「それ繰り返してます」
「優先順位の問題じゃない」
日下部は言う。
生徒は少し顔を上げる。
「え?」
「“あとでやる人”じゃなくて」
短く言う。
「“今やるのが切り替えられない人”」
生徒は黙る。
「今の状態だと、全部が同じ重さに見えてる」
「……同じ重さ?」
「だから動かない」
日下部は続ける。
「重いから後回し、じゃない。
全部が曖昧だから後回し」
生徒は少し考える。
「じゃあどうすればいいんですか」
「区切る」
即答。
「“今やるやつ”を一個だけ決める」
生徒は少し驚く。
「一個だけ?」
「全部やろうとするから止まる」
日下部は淡々と続ける。
「一個なら動ける」
生徒は黙る。
「でも、残りが気になります」
「気になっていい」
短く言う。
「ただ、“今じゃない”って分けるだけ」
生徒はゆっくり頷く。
「頭の中で全部同時にやってました」
「それが止まってる理由」
日下部は言う。
「あともう一個」
「はい」
「後回し癖じゃなくて、“始め方の問題”」
生徒は顔を上げる。
「始め方?」
「始めるスイッチがない」
短く言う。
「だから全部同じに見える」
生徒は少し考える。
「……じゃあ、最初だけやればいいんですか」
「そう」
「5分だけでもいい」
日下部は続ける。
「始まれば勝手に流れる」
生徒は立ち上がる。
「ちょっと分かりました」
「それでいい」
ドアの前で止まる。
「今まで、全部まとめて考えすぎてました」
「そういうタイプは多い」
短く返す。
ドアが閉まる。
やる気の問題じゃない。
始め方の設計の問題。
一個だけ切ると、動きは勝手に出る。
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