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星の消失は、止まらなかった。
最初の夜から数えて七日。
観測塔の記録には、すでに数万の消失が書き込まれている。
王都の夜空は、以前とは明らかに違っていた。
かつては色の光が散らばっていた空が、今は広い闇を抱えている。
王宮の塔の上で、観測官が空を見上げていた。
「まただ」
誰かが言う。
望遠鏡が動く。
「赤星、消失」
記録係が紙に書き込む。
「西区画、恋人分類」
その横で別の観測官が言う。
「青星も消えた」
「友人分類」
紙の上の数字がまた増える。
誰も驚かなくなっていた。
それでも、慣れることはなかった。
「……待て」
若い観測官が言った。
「何だ」
彼は望遠鏡を覗いたまま、動かない。
「消えていない」
「何が」
彼はゆっくり言う。
「無色星です」
部屋が静かになる。
責任者が近づいた。
「確認しろ」
望遠鏡が交代される。
数秒後。
「……本当だ」
男が言う。
「残っている」
「どのくらい」
記録係が紙をめくる。
「ここ数日の消失記録」
彼は言った。
「色星ばかりです」
学官が眉をひそめる。
「無色星は」
紙を確認する。
「……消えていない」
その言葉に、塔の空気が変わった。
王太子は窓の前に立っていた。
夜の空にはまだ星がある。
だが多くは消えていた。
その中で、いくつかの光が残っている。
淡い、色のない星。
「確かなのか」
彼が聞く。
観測官は頷く。
「記録上、消失例がありません」
「一つも」
「はい」
王太子は空を見上げた。
無色星。
最初に現れたとき、人々はそれを異常だと思った。
王妃の影響。
未知の現象。
危険な兆候。
だが今。
「……逆だな」
王太子が言う。
「何がです」
学官が聞く。
「残っている」
彼は空を指した。
「無色星だけが」
塔の中の誰も言葉を出さなかった。
星喰いは星を消す。
だが、すべてではない。
色のある星は消える。
恋人。
友人。
家族。
人間関係の分類に当てはめられた光。
それらは消えていく。
だが。
無色星だけは残っている。
学官がゆっくり言った。
「理由はまだ分かりません。
ですが」
彼は紙をめくる。
「無色星の発生記録には特徴があります」
王太子が振り返る。
「何だ」
「関係の分類ができない」
彼は言う。
「恋でもない。
友情でもない。
家族でもない」
観測塔の窓から夜空が見える。
無色星は静かに光っている。
王太子はそれを見ていた。
「つまり」
彼が言う。
「人間の関係でも枠に入らないもの」
学官は頷いた。
「おそらく」
沈黙が落ちる。
そのとき塔の扉が開いた。
エリュネだった。
夜風が彼女の髪を揺らしている。
王太子が振り返る。
「ここにいたのですね」
彼女は静かに言った。
「庭園から空が見えました」
彼女は窓へ歩く。
夜空を見上げる。
闇の中に残る、いくつかの光。
色のない星。
「減りましたね」
彼女が言う。
王太子は頷く。
「消えている」
エリュネはしばらく空を見ていた。
そして言う。
「でも」
彼女は無色星を指す。
「あれは残っています」
王太子は少し笑った。
「学者たちも同じことを言っていた」
「そうですか」
彼女は少し考える。
「不思議ですね」
「何が」
「最初は」
エリュネは言う。
「無色星が異常だと思われていた」
王太子は頷く。
「そうだったな」
エリュネは空を見たまま続ける。
「でも今は」
彼女の声は静かだった。
「一番消えない」
観測塔の窓から見える空で。
無色星が、静かに光っていた。
星喰いの夜の中で。
それでも消えない光だった。