テラーノベル
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廊下の空気は、妙に静かだった。
蒼の「どこまで耐えられる?」という言葉のあと。
誰もすぐには笑わなかった。
でも。
数秒後。
誰かが吹き出した。
「やば」
「それちょっと見たい」
笑いが広がる。
凪の足は動かない。
逃げればいい。
それは分かっている。
でも。
蒼の前で背中を向けるのが、妙に怖かった。
蒼は凪を見ていた。
観察するみたいに。
「ほら」
肩をすくめる。
「もう帰る?」
軽い声。
凪は答えない。
蒼は周りを見て言う。
「な?無理だろ」
周囲が笑う。
沙希が壁にもたれたまま言った。
「ねえ蒼」
蒼が「ん?」と返す。
沙希は凪を見たまま言う。
「せっかくだしさ」
少し笑う。
「試してみれば?」
廊下の空気が少し変わる。
誰かが「お?」と声を上げる。
蒼は眉を上げた。
「何を」
沙希は肩をすくめる。
「こいつ」
凪を顎で示す。
「どこまで耐えるか」
沈黙。
そして。
蒼の友達が笑い出す。
「それいい」
「ゲームじゃん」
「凪チャレンジ」
誰かがスマホを構えた。
冗談みたいに。
凪の胸が強く鳴る。
蒼は少しだけ黙っていた。
それから。
ゆっくり笑った。
「面白いな」
凪の心臓が嫌な音を立てる。
蒼は一歩近づいた。
距離が詰まる。
「なあ凪」
凪は視線を落としたまま。
蒼は言う。
「逃げないんだろ」
凪は答えない。
蒼は小さく笑う。
「ほら」
周りに向かって言う。
「もう逃げてねーし」
笑い声。
沙希が口を開いた。
「凪」
静かな声。
凪は反応しない。
沙希は続ける。
「帰っていいよ」
一瞬。
凪の肩が動く。
でも。
沙希は次の言葉でそれを潰した。
「帰れるなら」
周りがまた笑う。
凪の耳の奥が熱い。
蒼は凪の顔を覗き込む。
「どうする?」
沈黙。
蒼は小さく舌打ちした。
「ほら」
肩を軽く押す。
凪の体が少しよろける。
「ちゃんと立てよ」
周りから声。
「優しいじゃん蒼」
「介護かよ」
笑い。
凪の頭が少しぼんやりする。
沙希が言った。
「ねえ」
蒼を見る。
「一個ずつやればいいんじゃない?」
蒼が眉を上げる。
「何を」
沙希は少し笑った。
「どこまで平気か」
指を一本立てる。
「例えば」
凪を見る。
「ここで笑われても立ってる」
周りがくすくす笑う。
沙希は続ける。
「蒼に馬鹿にされても帰らない」
蒼の友達が吹き出す。
「もうクリアしてる」
「余裕じゃん」
沙希はもう一本指を立てる。
「じゃあ次」
凪の目を見る。
逃げ場のない視線。
「蒼が本気でいらないって言っても」
少し間を置く。
「まだ残れる?」
廊下が静かになる。
蒼はその言葉を聞いて笑った。
「それは」
凪を見る。
「無理じゃね」
凪の胸が痛む。
沙希は言う。
「じゃあやってみなよ」
蒼の友達が「おお」と声を上げる。
完全に面白がっている。
蒼は少しだけ考えるふりをした。
それから。
凪を見て言う。
「なあ」
低い声。
「凪」
凪はゆっくり顔を上げた。
蒼の目は、楽しそうだった。
「俺さ」
軽い口調で言う。
「もうお前いらない」
一瞬。
世界が止まる。
周りの空気が凍る。
でも。
数秒後。
誰かが小さく笑う。
凪の呼吸が浅くなる。
蒼は続けた。
「ほら」
顎で廊下の出口を指す。
「行けよ」
凪の足は動かない。
動かない。
蒼の友達が息を呑む。
沙希はじっと見ている。
蒼が少し笑った。
「……な?」
周りに言う。
「無理だろ」
凪の視界が揺れる。
笑い声が遠い。
胸が苦しい。
でも。
足が。
動かない。
沙希が小さく言った。
「すごいね」
その声は、感心しているみたいだった。
でも。
優しさはなかった。
「まだいる」
蒼は笑った。
そして。
凪に言う。
「ほら。壊れてるじゃん」
その言葉で。
周りがまた笑った。
凪は。
その場に立ったまま。
初めて。
本当に。
逃げたいと思った。
でも。
足が。
動かなかった。
快晴くん🌌@垢を変えた
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コメント
1件
うわ……第39話、胸がぎゅってなった……。 蒼の「いらない」って言葉、軽く言えば言うほど刺さるよね。周りが笑ってるのに、凪だけ笑えない空気がすごくリアルで、読んでて息が詰まった。 沙希の「試してみれば?」の一言が、全部をゲームに変えてしまう怖さ。優しさのない「すごいね」が一番残酷だった。 凪、逃げたいのに足が動かないって描写が痛すぎます。ruruhaさんの空気の描き方、本当に巧みだな……。