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教室に入った瞬間、空気が変わる。
「来た」
誰かが言う。
小さく、でも合図としては十分な声。
遥は肩をすくめる癖が抜けない。
殴られる前の、身体が勝手に覚えた反応。
机に向かおうとした瞬間、背中に衝撃が来た。
どん、と鈍い音。
前につんのめり、机の角に肘をぶつける。
「うわ、邪魔」
「通路塞ぐなよ」
後ろにいた男子が、悪びれずに言う。
ぶつかったのではない。
押した。
遥は何も言わない。
言えば、次が来る。
案の定、足が出る。
椅子を引くふりをして、脛を蹴られる。
軽く、でも確実に痛い位置。
「いっ……」
声を出した瞬間、周りがざわつく。
「なに? 今の声」
「怒った?」
「こわ」
(違う……反射だ……)
昼休み。
廊下で呼び止められる。
「おい、遥」
腕を掴まれる。
逃げようとした瞬間、反対側からもう一本。
ぎゅっと力を込められ、骨が軋む。
「動くなって」
「話しかけてんだろ」
囲まれる。
いつもの人数。
数える意味はもうない。
腹に拳が入る。
息が抜ける。
声が出ない。
「ほら、こういうとこ」
「殴られても抵抗しないの、気持ち悪い」
もう一発。
今度は肩。
「人形かよ」
「反応しろよ」
遥は俯いたまま、耐える。
(殴られるのは……まだいい。喋らされるより……)
教師の足音がして、手が離れる。
「じゃーな、普通じゃない奴」
その言葉だけが残る。
午後の授業中。
消しゴムが飛ぶ。
紙が丸めて当たる。
後ろから髪を引かれる。
「やめろ」
小さく言った瞬間、机の下から蹴り。
「命令すんなよ」
「調子乗ってんじゃねえ」
クラスは見ている。
でも、誰も止めない。
止める理由がないからだ。
「遥ってさ。殴られる理由、ちゃんとあるよね」
笑い声。
「だって普通じゃないもん」
「空気読めないし、存在がズレてる」
放課後。
靴箱で、肩を強く掴まれる。
「なあ」
「今日さ、授業中ムカついた」
壁に押し付けられる。
後頭部がぶつかる。
「ごめ……」
言い切る前に、腹を蹴られる。
「ほら。すぐ謝る」
「そういうとこがさ」
拳が頬に当たる。
視界が揺れる。
「殴られる側の顔なんだよ」
遥は床に膝をつく。
(俺が……悪い)
(普通じゃないから……)
幼い頃から、
殴られる前に言われてきた言葉。
「お前は変だ」
「普通にしろ」
「なんでそれができない」
だから、もう疑わない。
殴られるのは、理由がある。
そう思わないと、壊れる。
最後に誰かが言った。
「ほら、また今日も生き延びたな」
「強いじゃん。殴られ慣れてて」
笑い声。
遥は立ち上がらない。
立ち上がる力を、もう計算している。
(次は……どこを殴られるだろう。顔は……避けたい。バレるから……)
それが、遥の日常だった。
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