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#読み切り
ドアが半分だけ開く。
「入っていい?」
「もう入ってる」
「だよな」
相談者はそのまま入ってきて、椅子に座った。
「なあ」
「ん」
「俺さ」
「うん」
「怒られない」
「いいじゃん」
「褒められもしない」
「……あー」
蓮司は頷いた。
「空気?」
「空気」
「便利?」
「便利」
相談者は机を指でなぞる。
「ミスしてもさ」
「うん」
「“まあいいか”で終わる」
「うん」
「成功しても」
「うん」
「“おー”くらい」
「うん」
「で、終わり」
少し沈黙。
「最初は楽だった」
「だろうな」
「期待されないの」
「楽だ」
「でも」
「うん」
「長く続くと」
「うん」
「存在してるか分からなくなる」
蓮司はすぐ返さない。
「透明」
「透明」
「背景」
「背景」
相談者は笑った。
「怒られるやつの方がさ」
「うん」
「ちゃんと見られてる感じする」
「するな」
「褒められるやつも」
「うん」
「存在してる」
「してる」
「俺だけ」
「うん」
「何も起きない」
蓮司は机に肘をついた。
「それさ」
「うん」
「問題起こさない能力が高い」
「褒めてる?」
「半分」
「もう半分は」
「放置される」
相談者は小さく頷く。
「俺、頼まれたこと全部やる」
「知ってる」
「遅れない」
「うん」
「断らない」
「うん」
「だから」
「うん」
「扱いやすい」
少し間。
「で」
「うん」
「代わりが効く」
蓮司は否定しない。
「効くな」
「効く」
「そこがきつい」
相談者は天井を見る。
「いなくても回る」
「回る」
「俺じゃなくてもいい」
「いいな」
「それが」
「うん」
「一番削れる」
沈黙。
「期待されないとさ」
「うん」
「失敗しても痛くない」
「うん」
「でも」
「うん」
「成功しても嬉しくない」
蓮司は頷く。
「振れ幅なくなる」
「そう」
「無風」
「無風」
相談者は笑う。
「平和っちゃ平和」
「だな」
「でも」
「うん」
「俺、生きてる感じしない」
蓮司は少し考える。
「期待されたい?」
「……分からん」
「怖い?」
「怖い」
「外した時」
「そう」
蓮司は淡々と言う。
「じゃあ小さい期待から」
「誰の」
「自分の」
相談者は顔を上げる。
「自分?」
「一個だけ決めろ」
「何を」
「今日、自分がやること」
「そんなので?」
「それが最初」
相談者は考える。
「……帰りにコンビニ寄る」
「いいな」
「いつも誰かに合わせて帰るから」
「今日は?」
「自分で」
少し間。
「それ」
「うん」
「期待って言うほどじゃなくない?」
「最初はその程度」
蓮司は言う。
「他人の期待ゼロで」
「うん」
「自分の期待一個」
「うん」
「それ守れると」
「どうなる」
「存在、戻る」
相談者は立ち上がる。
「俺さ」
「うん」
「怒られないの慣れてるけど」
「うん」
「期待されないのも」
「慣れてる」
「でも」
「うん」
「ちょっとくらいは」
「うん」
「自分で自分に期待してみる」
「それでいい」
ドアの前で止まる。
「なあ」
「なに」
「今の俺」
「うん」
「背景じゃない?」
「前景」
相談者は少し笑った。
「じゃあまあ」
ドアが閉まる。
何も起きない日が続くと、
人は削れない代わりに、
浮かび上がりもしなくなる。
だからまず一つ、
自分の予定を自分で決める。
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