テラーノベル
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ドアが開くなり、相談者は言った。
「俺さ、いじられ役なんだけど、もう無理」
蓮司は椅子を回して向く。
「急に来たな」
「急じゃない。ずっと思ってた。最初は軽かったんだよ。ツッコんで笑い取る係。滑っても俺がオチ。遅刻したら俺がネタ。成績出たら俺がネタ。最近、全部俺で回る」
「便利ポジション」
「そう。で、外れると空気悪くなる。俺が黙ると“どうした?”って言われる。でも戻るとまた同じ。終わらない」
蓮司は机に肘をつく。
「嫌なラインは越えてる?」
「越えてる。けど、悪意100%じゃない。だから言いづらい。“冗談じゃん”で終わるやつ」
「一番面倒なやつ」
「そう。抜けたい。でも抜ける理由がない。ケンカしたいわけでもない。空気壊したくない。でも毎日削れる」
蓮司は少し考える。
「完全離脱は考えてない?」
「無理。クラス同じ、部活同じ。ゼロにはできない」
「じゃあ役割だけ降りる」
「どうやって」
「回収しない。それだけ」
「回収?」
「いじりが来たとき、オチまで持っていくのをやめる。笑いに変換しない。整えない。沈黙で返す」
「空気死ぬだろ」
「一回は死ぬ。二回も死ぬ。でも三回目で“あ、こいつ前と違う”って学習される。お前が毎回回収するから、供給が続く」
相談者は眉を寄せる。
「嫌なやつにならない?」
「少しなる。けど普通になるだけだ。今は“便利すぎる”。人は便利なものを使い続ける」
「怖いな」
「怖い。でも境界線は言葉より行動で伝わる。長文で説明すると“重い”って処理される」
少し沈黙。
「じゃあ、明日から急に無反応?」
「急に無反応だと角立つ。薄めに変える。笑うけどオチは渡さない。自分から自分を落とさない。誰かが振っても“いやそれは違うだろ”で止める」
「ツッコむ?」
「冷静に。テンション上げない。笑いの燃料を足さない」
相談者は椅子の背にもたれる。
「今まで自分で回してたんだな」
「そう。お前が司会してた」
「司会降りるか」
「降りろ。誰かが代わるか、話題が変わる。どっちでもいい」
少し間。
「でもさ、優しいやつらなんだよ」
「分かる。悪意が薄いほど止まらない」
「俺が変わったら、気まずくならない?」
「最初はなる。でも“最近そういうのやめたんだ”って短く言えばいい。理由は要らない。宣言も要らない。続けるだけ」
相談者は立ち上がる。
「今日、試す」
「何から」
「自分から自分を下げない。振られてもオチまで持ってかない。笑いに変換しない」
「十分」
ドアの前で止まる。
「なあ。これで距離できたら?」
「できるやつはできる。でも残るやつは、最初からそっち側だ。役割で繋がってたのか、人で繋がってたのか分かる」
相談者は小さく息を吐く。
「選別か」
「自然にそうなる」
ドアが閉まる。
いじられ役は、誰かに与えられるより、 自分で回収し続けた結果、固定される。
降りるのは宣言じゃない。
回収をやめる日から始まる。
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