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名簿は、三枚だった。

失踪者一人につき、一枚。

氏名、生年月日、住所、最終目撃情報。


どれも既に“終わった事件”として整理されている。


真琴は、三枚を横に並べた。


「……似てないね」


ぽつりと零した声に、玲が視線を上げる。


年齢も、職業も、生活圏もばらばらだ。

表向きの共通項はほとんどない。

無理に括ろうとすれば、「不運だった人たち」で終わってしまう。


「だから、最初は無関係って判断されたんだろ」


燈がソファにもたれたまま言う。


「偶然、黒瀬と接点があった。

それ以上でも以下でもない、って」


その名前が出ても、真琴はもう手を止めなかった。


「……でもさ」


名簿の端に指を置く。


「接点が“ある”ってだけなら、弱すぎる」


澪が頷く。


「三人とも、黒瀬と深く揉めた記録はない。金銭トラブルも、恨みも、暴力歴もない」

「それなのに、全員消えてる」


玲が淡々と続ける。


「しかも、失踪の直前まで、

生活に大きな変化は見られない」


真琴は、三枚の名簿の裏を返した。

そこに貼られていたのは、

それぞれ別件として扱われた資料の写し。


議事録。

内部メモ。

参考人としての聴取記録。


「……あ」


声が、自然に落ちた。


「見つけた?」


澪が身を乗り出す。

真琴は答えず、三つの資料を重ねる。


日付。

場所。

肩書き。


一致しているのは、ひとつだけだった。


「この人たち」


指で、同じ行をなぞる。


「同じ不正事件で、証言してる」


室内が静かになる。


「しかも」


真琴は続ける。


「全員、立場が違う」


企業側。

行政側。

現場側。


「一人欠けても成立しない配置だ」


玲が低く言った。


「三人揃って、

“あの不正が問題なく終わる”」

「……証言者、ってことか」


燈が顔をしかめる。


「不正を暴いた側じゃない。

成立させた側」


真琴は、ゆっくり息を吐いた。


断片だったものが、静かに一つの形を取り始める。

構造が、ここで噛み合う。


誰も主導していない。

誰も命じていない。

だが、全員が“自分の役割”を果たした。

その結果、不正は成功した。


「……じゃあさ」


燈が言う。


「この三人が消えた理由って――

口封じ」


真琴は即答しなかった。

代わりに、名簿を閉じる。


「……違う」


全員が真琴を見る。


「口封じなら、

もっと早く消されてる」


証言直後。

もしくは、不正が公になる前。


「でも、この人たちが消えたのは

不正が“完全に終わった後”だ」


玲が、理解したように言葉を継ぐ。


「……成功が確定してから」

「そう」


真琴は頷く。


「もう安全になったからこそ、

“整理された”」


必要なくなった証言。

残っていると、構造を説明できてしまう人間。


「だから消えた」


沈黙が落ちる。


「じゃあ黒瀬は?」


澪が、静かに尋ねた。

真琴は、少し間を置いた。


「……黒瀬は」


資料の山の向こうを見つめる。


「消せなかった人間だ」


三人は、不正を成立させた証言者。

黒瀬は、それを知ってしまった存在。


「だから、有罪にした」


名前を消す代わりに、意味を歪める。


「檻に入れて、黙らせる方が、

安全だった」


玲が言う。


「生かしたまま、使う」

「……うん」


真琴は頷いた。


机の端に置かれた、父の手帳が視界に入る。

もう何度も読んだ文字。


真実は、

隠されるより先に、

使われない形にされる。


「……」


真琴は、失踪者名簿を揃えた。


「この三人は、使い終わった」


そして、黒瀬は――

使い続けられている。


「次、見るべきなのは」


真琴は言う。


「この不正で、一番得をした人」


まだ、確かめるだけだ。

それでも――

線は、もう引けてしまった。

よはく探偵社「沈黙は罪を選ばない」

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