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朝。教室は、いつも通りだった。 教師は出席簿を開く。
教師
名前を呼ぶ。
三浦
斎藤
小林
一人ずつ、問題なく返事が返る。
教師
誰も違和感を持たない。 教師だけが、一瞬だけ止まる。
教師
何かが、引っかかる。 だが、それ以上は考えない。 授業中。笑い声が上がる。
三浦
斎藤
小林
教師は黒板に向かいながら、聞いている。 いつもの会話。 いつもの空気。 問題はない。 そう判断する。 休み時間。教室の後ろ。
三浦
斎藤
小林
教師は気づいている。 視線を向ける。円ができている。 誰かを囲んでいる。
教師
声をかける。 一瞬で、空気が崩れる。
三浦
笑顔。 何もなかった顔。 教師はそれ以上、踏み込まない。
教師
それで終わる。 それで、“終わったことにする”。
放課後。 誰もいないはずの教室。 教師は忘れ物を取りに戻る。 机の配置は、整っている。 椅子も、全部ある。 一つも欠けていない。
教師
違和感。また、同じ。 教師はゆっくり歩く。 窓際の席の前で止まる。
教師
思い出しかける。やめる。 そのとき。机の中。何かが見える。 紙。ぐしゃぐしゃに丸められている。 教師は取り出す。開く。 中身。びっしりと書かれている。 同じ言葉。何十回も。
『無視してるだけだから』
教師の手が止まる。もう一枚。
『触ってないからセーフ』
もう一枚。
『先生も見てた』
教師
息が詰まる。 そのとき。床。小さな音。
コツ。
教師の足元。何かに当たる。 見る。 細い金属。少し曲がっている。 教師は拾い上げる。 その瞬間。視界が、揺れる。
教室。 同じ場所。 だが、違う。 時間が戻ったみたいに。 円ができている。生徒たち。
三浦
斎藤
小林
教師は、その場に立っている。 見えている。全部。 中心。柊がいる。 椅子に座らされている。 顔は上げられない。 三浦がペットボトルを押し付ける。 斎藤が頭を押さえる。 小林が紙を机に置く。
『いないなら楽なのに』
笑い声。
教師
声が出る。 だが。誰も、反応しない。
教師
聞こえていない。 まるで、“いない存在”みたいに。 教師は一歩踏み出す。 止めようとする。 手を伸ばす。 触れられない。すり抜ける。
教師
柊の肩が震えている。 声にならない声。 教師は、見ている。ただ、見ている。 あの日と同じように。
教師
足が止まる。 分かってしまう。 これは、“再現”じゃない。 これは―― 教師が“選んだ結果”。 何もしなかった時間。 そのまま、残っている。
場面が切れる。 教室。元の静けさ。 教師は床に膝をついている。 手には、あの金属。
教師
否定する。
教師
思い出す。
席、戻れ
それだけ。
教師
そのとき。 机の下。何かが動く。ゆっくりと。 這い出る。暗い影。 形が、人になる。 柊。 顔は見えない。ただ、立っている。 教師のすぐ前に。
柊
教師の呼吸が止まる。
教師
柊
一歩、近づく。教師は後ずさる。 椅子にぶつかる。逃げられない。
柊
さらに近い。
柊
教師
否定できない。
柊
教師の手から金属が落ちる。 カラン、と音が響く。
柊
しゃがむ。目線が同じ高さになる。
柊
教師
初めて、声を張る。
教師
その瞬間。 教室の空気が、止まる。 柊が、ゆっくり首を傾ける。
柊
静かな声。
柊
教師の顔が固まる。
柊
教師
柊
教師
柊
すぐ耳元。
柊
教師の足元。床が、わずかに沈む。
教師
動けない。 下から、何かが触れる。 冷たい手。何本も。 掴む。引きずる。
教師
声が震える。 教室は、静かだ。 誰もいない。 助けは来ない。
柊
最後の言葉。
柊
教師の体が、ゆっくりと沈む。 机の高さまで。 肩。 首。 顔。 最後に。 目だけが残る。 その目の前。 黒板。文字が浮かぶ。
『全員出席』
教師の視界が、消える。
翌日。 教室。 新しい教師が立っている。
新担任
名前を呼ぶ。 止まらない。最後まで。
新担任
机は、すべて埋まっている。 誰も疑問を持たない。 黒板。消し残し。薄く。
『まだいる』
56
猫塚ルイ
