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KOKUGA
464
✴︎ 妃翔
65
#怪異
イキリ火の玉
148
257
朝。教室は、いつも通りだった。 教師は出席簿を開く。
教師
名前を呼ぶ。
三浦
斎藤
小林
一人ずつ、問題なく返事が返る。
教師
誰も違和感を持たない。 教師だけが、一瞬だけ止まる。
教師
何かが、引っかかる。 だが、それ以上は考えない。 授業中。笑い声が上がる。
三浦
斎藤
小林
教師は黒板に向かいながら、聞いている。 いつもの会話。 いつもの空気。 問題はない。 そう判断する。 休み時間。教室の後ろ。
三浦
斎藤
小林
教師は気づいている。 視線を向ける。円ができている。 誰かを囲んでいる。
教師
声をかける。 一瞬で、空気が崩れる。
三浦
笑顔。 何もなかった顔。 教師はそれ以上、踏み込まない。
教師
それで終わる。 それで、“終わったことにする”。
放課後。 誰もいないはずの教室。 教師は忘れ物を取りに戻る。 机の配置は、整っている。 椅子も、全部ある。 一つも欠けていない。
教師
違和感。また、同じ。 教師はゆっくり歩く。 窓際の席の前で止まる。
教師
思い出しかける。やめる。 そのとき。机の中。何かが見える。 紙。ぐしゃぐしゃに丸められている。 教師は取り出す。開く。 中身。びっしりと書かれている。 同じ言葉。何十回も。
『無視してるだけだから』
教師の手が止まる。もう一枚。
『触ってないからセーフ』
もう一枚。
『先生も見てた』
教師
息が詰まる。 そのとき。床。小さな音。
コツ。
教師の足元。何かに当たる。 見る。 細い金属。少し曲がっている。 教師は拾い上げる。 その瞬間。視界が、揺れる。
教室。 同じ場所。 だが、違う。 時間が戻ったみたいに。 円ができている。生徒たち。
三浦
斎藤
小林
教師は、その場に立っている。 見えている。全部。 中心。柊がいる。 椅子に座らされている。 顔は上げられない。 三浦がペットボトルを押し付ける。 斎藤が頭を押さえる。 小林が紙を机に置く。
『いないなら楽なのに』
笑い声。
教師
声が出る。 だが。誰も、反応しない。
教師
聞こえていない。 まるで、“いない存在”みたいに。 教師は一歩踏み出す。 止めようとする。 手を伸ばす。 触れられない。すり抜ける。
教師
柊の肩が震えている。 声にならない声。 教師は、見ている。ただ、見ている。 あの日と同じように。
教師
足が止まる。 分かってしまう。 これは、“再現”じゃない。 これは―― 教師が“選んだ結果”。 何もしなかった時間。 そのまま、残っている。
場面が切れる。 教室。元の静けさ。 教師は床に膝をついている。 手には、あの金属。
教師
否定する。
教師
思い出す。
席、戻れ
それだけ。
教師
そのとき。 机の下。何かが動く。ゆっくりと。 這い出る。暗い影。 形が、人になる。 柊。 顔は見えない。ただ、立っている。 教師のすぐ前に。
柊
教師の呼吸が止まる。
教師
柊
一歩、近づく。教師は後ずさる。 椅子にぶつかる。逃げられない。
柊
さらに近い。
柊
教師
否定できない。
柊
教師の手から金属が落ちる。 カラン、と音が響く。
柊
しゃがむ。目線が同じ高さになる。
柊
教師
初めて、声を張る。
教師
その瞬間。 教室の空気が、止まる。 柊が、ゆっくり首を傾ける。
柊
静かな声。
柊
教師の顔が固まる。
柊
教師
柊
教師
柊
すぐ耳元。
柊
教師の足元。床が、わずかに沈む。
教師
動けない。 下から、何かが触れる。 冷たい手。何本も。 掴む。引きずる。
教師
声が震える。 教室は、静かだ。 誰もいない。 助けは来ない。
柊
最後の言葉。
柊
教師の体が、ゆっくりと沈む。 机の高さまで。 肩。 首。 顔。 最後に。 目だけが残る。 その目の前。 黒板。文字が浮かぶ。
『全員出席』
教師の視界が、消える。
翌日。 教室。 新しい教師が立っている。
新担任
名前を呼ぶ。 止まらない。最後まで。
新担任
机は、すべて埋まっている。 誰も疑問を持たない。 黒板。消し残し。薄く。
『まだいる』