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猫塚ルイ

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職員室。 昼休み。 ざわつきは、もう収まっている。 三浦と斎藤が「いなくなった」ことも、誰かが強く騒ぎ立てる段階は過ぎていた。 代わりにあるのは、“処理しようとする空気”。
教師A
小さく、ため息。
教師B
教師A
教師B
否定しきれない沈黙。 新担任が、書類を見ている。 出席簿。三浦、斎藤。 どちらにも、丸がついている。
新担任
確認するように呟く。 誰も訂正しない。
教師C
教師B
教師C
教師B
その言葉。 職員室の空気が、わずかに重くなる。
教師B
教師C
教師B
教師A
教師B
一瞬、言葉が止まる。
教師B
教師A
教師B
新担任の手が止まる。
教師B
教師C
教師B
教師A
沈黙。
教師B
小さく。はっきりと。 職員室の空気が凍る。
教師A
教師B
教師C
教師B
その一言。 誰もすぐに否定できない。
新担任
低い声。
教師B
全員の視線が動く。 一人の席。空いている。
教師C
名前は出ない。誰も言わない。
教師B
教師A
教師B
教師C
思わず声が荒くなる。
教師B
静かに。沈黙。
新担任
誰も答えない。
教師A
教師B
教師A
教師B
ゆっくり、首を振る。
教師B
机の上。 一冊のノート。 押収されたもの。誰かの。
教師C
ページをめくる。 日付。ずらりと並ぶ。
○月○日 担当:三浦 回数:15
○月○日 担当:斎藤 回数:20
○月○日 担当:――
名前は途中で途切れている。 でも、その先も続いている。 毎日。途切れず。
教師C
教師B
新担任の喉が鳴る。
教師A
その言葉。誰も反応しない。
教師B
静かに。確実に。
教師C
教師B
教師A
教師B
その瞬間。誰かが笑う。乾いた音。
教師A
教師B
教師C
新担任が、ノートを閉じる。強く。
新担任
誰も否定しない。
新担任
その言葉。空気が動く。
教師A
教師C
同時に止める。
新担任
苛立ち。隠さない。
教師A
教師C
教師B
教師B
新担任の表情が歪む。
新担任
教師B
教師C
小さく。その瞬間。 職員室の蛍光灯が、ちらつく。 一度。二度。 誰かが顔を上げる。 壁の掲示。クラス写真。集合写真。
教師A
指を差す。 一人分。空白。 不自然な隙間。
教師C
誰も答えない。 教師Bが、ノートをもう一度開く。 最後のページ。 さっきまでなかった文字。 増えている。
『見てたよね』
『止めなかったよね』
『笑ってたよね』
『普通って言ったよね』
教師Bの手が震える。
新担任
答えはない。 ただ。 職員室の空気が、少しずつ重くなる。 逃げ場がなくなるみたいに。
教師A
声がかすれる。
教師A
誰も見ない。
教師A
教師C
教師A
沈黙。 思い出せない。 でも。感触だけが残っている。 何かを踏み越えて歩いた感覚。 教師Aの顔が青ざめる。 ノート。最後の行。また増える。
『全員見てた』
蛍光灯が、落ちる。 一瞬、暗転。 戻ったとき。 椅子が、一つ。空いている。 誰も、その席の名前を思い出せない。
『あの日のことは誰も間違えていない』