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猫塚ルイ

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朝。 教室。 いつも通り。 何も変わっていないはずの空気。
新担任
出席簿を開く。 ページをめくる音。 一人目。 二人目。 三人目。 名前が呼ばれる。 全員が返事をする。
新担任
返事はない。 でも。新担任は、顔を上げない。
新担任
自分でチェックをつける。
新担任
同じ。返事はない。でも。
新担任
丸がつく。 誰も、おかしいと思わない。 教室の後ろ。 空いている席がある。 二つ。 でも、それを「空席」と認識している人間はいない。 “そこに誰かが座っていた”感覚だけが、曖昧に残っている。 新担任が、ページをめくる。 一瞬、止まる。
新担任
そこに書かれているはずの名前。 読めない。 文字が、認識できない。 “存在しているのに、読めない”。
新担任
飛ばす。自然に。 名前を呼ばなかった。 でも、誰も気づかない。 出席が終わる。
新担任
当たり前のように言う。 黒板。日直の欄。 名前が書いてある。 はずなのに。 一部だけ、読めない。
生徒A
生徒B
見る。確かに書いてある。でも。
生徒B
笑いが起きる。軽く。
生徒C
生徒B
でも、それ以上は誰も突っ込まない。 “分からないままでも問題ない”空気。 休み時間。 ノートが回る。 連絡事項。 プリント。 誰かの名前を書く欄。 ペンが止まる。書こうとしている。 分かっている。でも。 書けない。 空白のまま、次に回す。 受け取った生徒。 その空白を見て、“違和感を持たない”。 それが正しい状態みたいに。
廊下。教師同士の会話。
教師A
教師B
教師A
教師B
一瞬の沈黙。
教師A
否定しない。できない。
教師B
教師A
教師B
紙を出す。
踏む:15回
押さえつけ:20分
交代:あり
教師A
教師B
指で示す。 対象の名前。 書いてあるのに、読めない。
教師A
教師B
教師B
教室。 三浦の席。斎藤の席。空いている。 でも。 誰も“いない”とは思っていない。 ただ、“そこに触れないようにしている”。 無意識に。 一人の生徒が、机に足をぶつける。 何もないはずの位置。 ゴン、と音。
生徒
足を押さえる。 確かに当たった。硬い。 机じゃない。 “人の骨の硬さ”。 でも。
生徒
それで終わる。 黒板。いつの間にか。 文字が増えている。
『よばれなかった』
『でもいた』
『ずっといた』
『まいにちいた』
誰も読まない。読めない。 新担任が振り返る。
新担任
一瞬だけ、違和感。 何かを忘れている感覚。 でも。
新担任
流す。 その瞬間。教室の後ろ。 椅子が、わずかに軋む。 誰も座っていないはずの席。 ゆっくりと。沈む。 “そこにいる”重さで。 誰も見ない。 ただ。 “名前を呼ばれなかった存在”だけが、残り続けている。