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麗太
海の紅月くらげさん
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2件
無色星の数は、ゆっくりと、しかし確実に増えていた。
最初は地方の観測所だけだった。
農村。港町。鉱山都市。
だが次第に、王都でも観測され始める。
王宮観測塔の記録板には、白い印がいくつも打たれていた。
金色や青の星とは違う、色のない印。
学官の一人が小さく呟いた。
「……増えすぎだ」
隣の学官が頷く。
「半年で三倍」
机の上には報告書が山になっている。
すべて同じ内容だった。
――無色星観測。
しかも場所はばらばらだ。
市場。
酒場。
宿屋。
学校。
王宮とは関係のない場所ばかり。
「共通点は?」
若い観測官が聞く。
老学官は首を振った。
「特定できない。
恋愛でもない。
家族でもない」
記録をめくる。
「だが」
彼は小さく言った。
「関係はある」
誰かと誰か。
それだけは確かだった。
王都の市場。
昼の光が石畳を照らしている。
魚屋の男が笑っていた。
「おい、また来たのか」
「値段を見に来ただけです」
向かいの店の女が肩をすくめる。
二人は長年の顔なじみだった。
恋人ではない。
家族でもない。
ただ同じ場所で働いている。
「今日は安いぞ」
「昨日もそう言ってました」
「昨日より安い」
女が笑う。
「嘘つき」
「商売だからな」
二人は笑う。
それだけのやり取り。
だがその夜。
王宮観測塔の記録に、また一つ白い印が打たれた。
場所は王都市場。
無色星。
港町では、船乗りたちが酒を飲んでいた。
「お前また帰ってきたのか」
「当たり前だろ」
「沈むと思ってた」
「沈まねえよ」
笑い声。
肩を叩き合う。
何年も続く関係。
友情と呼ぶほど大げさではない。
だが確かに続いている。
その夜、港町の空にも無色星が一つ増えた。
王宮。
エリュネは観測記録を読んでいた。
ページをめくる。
無色星。
無色星。
無色星。
「……増えていますね」
向かいの椅子で、王太子が腕を組んでいる。
「そうだな」
彼は記録板を見る。
「恋でもない。
家族でもない。
だが関係はある」
エリュネは頷いた。
「人間関係です」
「つまり」
王太子は小さく笑う。
「空は人間だらけだな」
エリュネは窓を見る。
夜の空。
星が満ちている。
金色。
青。
緑。
そして。
無色。
それは色のない光。
だが確かに存在する。
「殿下」
「なんだ」
「空は広いですね」
彼は少し考えた。
「今までは狭かった」
「狭かった?」
「王宮の星だけ見ていた」
王太子は言う。
「だが」
窓の外を指す。
「違うらしい」
王宮の外。
王都。
地方。
人がいる場所すべて。
そこに星が生まれている。
「空は」
彼は静かに言った。
「国より大きい」
エリュネはその言葉を聞いて、少しだけ目を細めた。
理解したわけではない。
だが。
どこか、胸の奥で何かが動いた気がした。
その夜。
観測塔は新しい記録を作る。
無色星。
ついに百を超えた。
王宮だけの空は、もう存在していなかった。