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麗太
海の紅月くらげさん
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最初に気づいたのは、観測塔の学官だった。
「……変化しています」
夜の観測室。
星図の前で、数人の学官が立ち尽くしていた。
中央に描かれているのは、王宮の上空。
その中でもひときわ強く記録されている星がある。
金色星。
王太子の星だった。
この国で最も強く、最も明るい星。
恋愛の星。
情熱の星。
そう説明されてきた。
だが、最近になって奇妙な変化が現れていた。
「輝度が安定しています」
若い観測官が言う。
「以前は周期的に強くなったり弱くなったりしていました」
それが王太子の特徴だった。
爆発的な金色。
強く燃え、周囲の星をかすませるほどの光。
だが今は違う。
「安定?」
老学官が眉をひそめる。
「はい」
記録を指す。
「光度は下がっています」
「だが」
ページをめくる。
「消える兆候がありません」
静かな金色。
激しさはない。
だが揺れない。
老学官は小さく言った。
「……持続型」
その言葉に、部屋の空気が変わる。
恋愛星には、二つの型があると言われていた。
燃焼型。
一気に強く輝き、短く終わる星。
そして。
持続型。
光は強くないが、長く続く星。
「王太子の星が、持続型に変わった?」
誰かが呟く。
それは、ほとんど例のない変化だった。
翌日。
王宮の書斎。
王太子は観測記録を読んでいた。
「面白いな」
紙を机に置く。
「俺の星が変わったらしい」
向かいの椅子で、エリュネが静かに聞いていた。
「持続型だそうだ」
「そうですか」
彼女は特に驚かなかった。
王太子は少し笑う。
「感想はそれだけか」
「観測結果ですから」
エリュネは言う。
「感情ではありません」
彼は椅子にもたれた。
「つまらない答えだ」
だが怒っているわけではない。
むしろ少し楽しそうだった。
「理由は分かるか」
エリュネは少し考える。
「関係が安定したのでは」
「誰との?」
彼女は答えない。
ただ静かに彼を見る。
王太子は笑った。
「なるほど」
机の上の紙を叩く。
「学官はこう書いている」
声に出して読む。
「感情の爆発から、関係の持続へ」
紙を置く。
「つまり」
彼は言う。
「恋が落ち着いた」
エリュネは首を少し傾げた。
「それは悪いことですか」
「普通はな」
王太子は窓を見る。
昼の空。
星は見えない。
「恋は燃えるものだ」
「消えることもあります」
「そうだな」
彼は笑う。
「だが俺の星は消えないらしい」
エリュネは少しだけ黙る。
そして言った。
「続いているからです」
王太子はその言葉を繰り返す。
「続いている」
「はい」
エリュネは静かに言う。
「殿下が選び続けているからです」
その瞬間、彼は少しだけ目を細めた。
「……選んでいるのは俺だけか」
問いだった。
だが責める声ではない。
エリュネは答えない。
ただ空を見る。
王宮の庭の向こう。
遠くの空。
そこには、見えない無数の星がある。
「殿下」
「なんだ」
「星は関係から生まれます」
「そうらしいな」
「なら」
彼女はゆっくり言った。
「関係が続いている限り」
少しだけ間を置く。
「星も続きます」
王太子はしばらく黙っていた。
やがて、小さく笑う。
「なるほど」
椅子から立ち上がる。
「つまり」
窓の外を見る。
「努力の成果か」
エリュネは何も言わなかった。
だがその夜。
観測塔の記録は、また更新される。
王太子の金色星。
光度は以前より弱い。
だが。
これまでで一番、安定していた。