テラーノベル
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放課後の教室。
黒板の前に置かれたひとつの机を中心に、男子たちはまるでネット番組の収録のように円をつくっていた。
机の上にはスマホ三台。
画面を明るく照らす光だけが、この場所を異様な舞台のように浮かび上がらせている。
彼らは勝手にテンションを上げ、
勝手に段取りを決め、
勝手に笑っていた。
その“番組”の主役である遥は、その二メートル後ろ、壁際で硬直している。
たぶん、逃げたら本気で捕まると知っているからだ。
「じゃあ今日は、“買い手のコメント紹介コーナー”入りまーす」
ひとりがわざと声を張る。
周囲がどっと笑う。
教室はもう、授業の場所ではなく“遥を並べて遊ぶためのスペース”に変わっていた。
「まずはこちら。《もっと情けない顔》」
スマホを掲げた手がこちらに向く。
遥の肩が、小さく跳ねた。
「できます」
即答。
笑い声。
遥の喉がひゅっと詰まる。
声を漏らしたら、もっと悪化すると知っているから、息すら殺す。
「次。《檻から出ようとして叩かれるところ》」
「これは絶対ウケる。檻作んの急げ」
すでに“やる前提”。
誰かが、工具箱を持ってきているという噂すらあった。
冗談に聞こえないのは、彼らがこれまで何十回も、“遥に関する冗談を実行”してきたからだ。
「《オークション形式で紹介して》」
「これ人気だから、次ガチで入札式やるか」
「値段どうする? スタートは0円?」
「いや、マイナスでもいいだろ。“処分費込み”みたいな」
笑いが弾む。
遥の顔が、限界まで表情を失っていく。
「次。《泣かせて》」
「はい出たw 定番w」
「泣くの早いからさ、撮影準備しとけばすぐ撮れるよな」
「あいつ“泣きかた”がウケるんだよw 耐えてんのに無理ってなるやつ」
遥の指が、壁を握りしめた。
爪が白くなる。
それでも、彼らの声は止まらない。
「次。《従わせて》」
「もう従ってるけどさー」
「もっと“わかりやすい形”でやるのは? 命令に対して即反応するやつとか」
「うなずきとか四つん這いとか入れる?」
「動画の伸び、爆発するだろ」
笑い声。
遥の胃の奥がぎゅっと縮む。
自分の名前ではなく“あいつ”と呼ばれるだけでなく、
もはや人としての形すら扱われていない。
「最後。《喋らせて。「はい、ご主人様」》」
その言葉を読んだ瞬間、教室の空気がひそりと揺れた。
男子たちは互いに顔を見合わせ──
同じ種類の“興奮”を目に宿す。
「言わせたらバズるんだよなー」
「バズる。絶対バズる。声震えるだろうし」
「泣き声混じったら最強」
「てか言わせるまでの過程も動画にしようぜ。“しつけ”ってやつ」
遥の呼吸が止まる。
何も言っていないのに、声を奪われたように。
男子たちはさらにスマホを寄せ合い、
“買い手たち”──つまりコメントの送り主──の話題で盛り上がる。
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「てかすげぇな、“買い手”からリクエスト来るとかさ」
「人気コンテンツだろ」
「コーナーとして固定化する?」
「いけるw 週一でやろうぜ」
彼らにとって“遥の人生”は、すでに週一の企画だった。
そして、遥はその中心で、
逃げることも壊れることも許されないまま、
静かに膝の震えを抑えていた。
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