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放課後の教室は、いつものように異様な熱気で満ちていた。スマホの光が点滅し、黒板の前の机を囲む男子たちはまるで制作会議でも開いているかのように談笑している。
「リクエスト募集しとくわ」
片手でスマホをいじりながら、ひとりが声を張る。
「こいつ、何されるのが一番伸びると思う?」
笑いながらの質問は、企画会議というよりも、人間を玩具として消費するための打ち合わせそのものだった。
「泣くのは鉄板だけど、最近“怯え顔”の方が伸びてる」
誰かが画面を覗き込みながら言う。
その言葉を耳にした遥は、壁際で息をひそめた。
膝を抱え、肩を震わせるしかない。逃げたら、次の動画に使われることは目に見えている。
「“反抗しないのに反抗したことにする”のも伸びるぞ」
別の声が続く。
「フェイク混ぜるとマジでバズる。事実よりウケるし」
笑いが波のように教室に広がる。
彼らにとって、遥の苦しみは数字や反応の材料でしかない。
「じゃあ次、反抗した設定で撮る?」
「いいね。“反抗したから檻に入れられた”ってやつ」
声に出すたびに、遥の胃が締めつけられる。
何もしていないのに、全て“設定”として暴力が正当化されるのだ。
「ストーリー性あると伸びるからな」
「編集で泣き顔から怯え顔に切り替えると、さらに伸びる」
スマホの画面を指でなぞりながら、加害者たちは楽しそうに計画を練る。
笑い声の合間に、遥の肩越しに刺さる視線。
自分がこの企画の中心であることを、逃げることもできずに知らされる。
壁際の遥は、無意識に膝を握りしめ、爪が皮膚に食い込むのを感じた。
心の奥で、ほんの小さな声が囁く。
「こんなの、普通じゃない」
しかし、その声は誰にも届かない。
届くのは、加害者たちの笑い声と、次の“リクエスト”が届く通知音だけだ。
「次の動画はどうすっか、夜の設定で泣かせるのもいいな」
「首輪とか装着してみる? アップも撮っとくとウケる」
彼らの声が続くたび、遥の体の奥から力が抜けていく。
視線を落とし、膝に顔を埋めても、逃げることは許されない。
教室のどこを見ても、支配と笑いしか存在しない。
そして、自分の意志など、すでに誰の目にも映っていないことを痛感するのだった。
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