放課後の教室は、少しだけ埃っぽい匂いがした。
窓は開いている。
風は弱い。
机を挟んで、生徒が座っている。
手は膝の上。
指が落ち着かない。
「……別に」
言いかけて止まる。
遥は何も言わない。
「大したことじゃないんです」
前置きみたいに言う。
「ただ」
一拍。
「なんか、ずっと疲れてて」
机の木目を見る。
「寝ても、あんまり変わらない」
沈黙。
廊下の向こうで、部活の声がする。
「部活も行ってるし、授業も普通に受けてるし」
肩を少しすくめる。
「サボってるわけでもないし」
小さく笑う。
「でも、なんかずっと重い」
遥は、机の端に指を置く。
「最近、嫌なことあったか」
生徒は考える。
少し長い沈黙。
「……ないです」
首を振る。
「むしろ、何もない」
一拍。
「それが、変な感じで」
遥は顔を上げない。
「静かな時期だな」
短く言う。
生徒は少し戸惑う。
「静か?」
「人間はな」
遥は続ける。
「ずっと同じ調子では動かない」
窓の外を一度だけ見る。
「波がある」
一拍。
「上がる時期と、下がる時期」
生徒は机を見る。
「下がってるってことですか」
「たぶんな」
即答ではないが、短い。
「理由がないと下がっちゃだめなんですか」
遥は少しだけ間を置く。
「理由がある時の方が、むしろ少ない」
教室が静かになる。
生徒はゆっくり息を吐く。
「じゃあ」
少し笑う。
「この疲れも、ただの波ですか」
遥は肩を少し動かす。
「そうかもしれない」
一拍。
「違うかもしれない」
生徒は苦笑する。
「どっちですか」
遥は答える。
「どっちでもいい」
沈黙。
「波なら、そのうち上がる」
机を軽く指で叩く。
「波じゃないなら」
一拍。
「休め」
生徒は少し黙る。
「……休んでいいんですか」
遥は視線を動かさない。
「壊れる前ならな」
短い。
教室に風が入る。
カーテンが少し揺れる。
生徒は椅子から立ち上がる。
扉の前で止まる。
「……理由なく疲れても、変じゃないんですね」
遥は答える。
「人間だからな」
それだけ。
扉が閉まる。
教室はまた静かになる。
静かな時期は、
何も起きていないようで、
人の内側だけが少しずつ動いている。






