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24
水面から引き上げられた遥の身体は、冷えきって震えていた。
だが、誰ひとりとして上着をかけようとはしない。
濡れた服が滴を落とし続けるその前で、叔父たちは笑いながらタバコに火をつけた。
「——で?」
晃司が問いかける。
声は落ち着ききっていて、まるで夕飯の献立を確認するかのようだった。
「言うこと、あるよな。
“自分がどういう立場か”。さっき池で途中まで言わせただろ」
遥は目を伏せる。
喉まで言葉が上がっているのに、出せない。
身体より、声のほうが先に凍りついていた。
「黙るとこだけは、昔から変わんないね」
沙耶香があきれたように笑う。
笑いながら近づき、遥の頬についた水滴を指で払う——払うふりだけをして、そのまま指先を離す。
「ちゃんと喋れよ。
大人の前だから“いい子ぶって”黙ってるわけじゃないよね?」
その言葉に、いとこたちがざわつく。
笑い混じりの期待。
“ここからが面白い”という空気が、彼らの間に電気のように走る。
遥は唇を噛む。
悔しさではない。
言葉を出すと何かが壊れると、身体が本能で止めるのだ。
「ほら見ろよ。これが“素質”ってやつ」
晃司が叔父たちのほうへ振り返り、肩をすくめる。
大人たちは酒のグラスを持ったまま、嘲るようにうなずいた。
「言わないと終われないよ」
沙耶香が、声を低くする。
その低さは、子どもではなく“物”に向ける声音だった。
遥は喉を振るわせ、ようやく、押しつぶされるような声を出す。
「……俺が、悪い……」
「聞こえねぇ」
今度は颯馬が冷たく言う。
池の水よりも冷たい、乾いた声だった。
「ちゃんと大人にも聞こえるように言わないと。
“自分がどう扱われるべき存在か”、それを理解してますって」
叔父たちが面白そうに身を乗り出す。
遥の肩が、一度だけ震えた。
震えを押し殺すように、胸の中心で息を巻き取って、声に変える。
「……俺は……
みんなに……迷惑しか……かけない……」
大人の一人が、笑いながら「よく言えたな」と軽い拍手をした。
その“褒め言葉”が、誰よりも残酷だった。
沙耶香が最後に、一歩だけ近づく。
「——じゃあ、迷惑かけないようにさ。
今日のこと、誰にも言わないよね?」
遥は答えられない。
黙ったまま、呼吸だけが乱れていく。
「言わないよね?」
今度は問いではなく、確認の形だった。
遥は、頷くしかなかった。
頷いた瞬間、いとこたちの笑い声が一斉に爆ぜた。
“見捨てられた”ことが、許可されたのだ。
叔父が最後に、氷のような一言を落とす。
「安心しろ。
お前のこと、本気で心配する大人なんていないから」
弱い慰めでも、救いでもない。
“存在の切り捨て”だけが、淡々と告げられる。
その場の全員が、当たり前の事実として受け入れた空気だった。
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