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翌日の放課後。
教室の空気は、まるで“式典”を始める前のそれだった。
机は端に寄せられ、中央には昨日の檻が置かれている。
黒板にはふざけた文字で大きく書かれていた。
《奴隷・No.0 受け渡し式》
チャイムが鳴り終わると同時に、男子がスマホを掲げ始める。
女子も集まり、笑いながらカメラをスタンバイしていた。
檻の中の遥は、昨日の傷で動くことすら辛い。
背中には紫色の線がいくつも残り、呼吸のたびに痛みが走った。
だが、逃げ道はどこにもない。
「はいはーい。本日のメインイベント、始めまーす」
高科が手を叩く。
教室の空気が一気に歪む。
「まず確認な。昨日のトップ入札者……」
スマホを掲げ、読み上げる。
「《kuro-〇〇》さん。
今日の“受け取り方法”は、《動画で指示》ってよ」
ざわつきが起きる。
「え、来んのかと思った」
「ガチじゃん」
「こわ……」
そのざわつきすら、遥の耳には遠い。
高科のスマホが通知を受けた。
“落札者”からのリアルタイムメッセージ。
《受け渡し前に“従順チェック”しろ》
《昨日より壊れてるか確認したい》
「……だってさ。
はい、遥。こっち見ろ」
顎を掴まれ、無理やり顔を上げられる。
教室中の視線とスマホのレンズが一斉に向く。
「声。出せ」
「……っ……や……め、て……」
「ほら、ダメだってよ。
《もっと壊れててほしい》って」
《従わせろ》
《泣かせろ》
《昨日より弱ってる?》
高科は檻の鍵を開け、遥の腕を掴んで引きずり出した。
床に膝をついた瞬間、背中に鋭い痛みが走る。
「立て」
従わないという選択肢は、もう存在しなかった。
遥は震え、壁に手をつきながらゆっくり立ち上がる。
「じゃ、従順チェックな。
昨日のセリフ覚えてるよな?」
逃げたいのに、声が勝手に震える。
「……らくさつしゃ……さま……
……おのぞ……みの……ままに……したが……」
「弱すぎて草」
「昨日よりいいわ」
「顔死んでる」
《合格》という通知が落札者から送られる。
「じゃあ受け渡しの“本番”いくぞ」
高科は、黒板の前に作られたスペースへ遥を押し出す。
机の上には——昨日の檻の“パーツ”、
それに加えて新品の太い結束バンドや、首輪状のバンドが置かれていた。
「《この姿で渡せ》ってさ」
スマホには、落札者の指示が続々と届いていた。
《四つん這いで固定しろ》
《頭下げさせろ》
《喋らせろ。自分の口で“奴隷です”って》
《抵抗したふりして泣かせてから渡せ》
教室の誰かが笑う。
「やっば……昨日より指示ガチじゃん」
「ほら遥、四つん這い」
肩を押され、膝が崩れ落ちる。
床の冷たさと、みんなの影が覆いかぶさる。
その中で、遥はほとんど本能で喋った。
「……やめ……やだ……
……おねがい……もう……」
「“奴隷です”は?」
「……っ……おれ……は……
……どれい……です……」
一瞬の静寂。
そのあと、爆発的な笑いと拍手。
《よし》
《完璧》
《渡せ》
《従順すぎて笑う》
《最高の状態で引き渡し成功》
高科は再度スマホを見た。
「落札者からコメント。
——“映像は満足。今日の受け渡しは完了”だと」
その瞬間だった。
高科が、後ろから遥の後頭部をぐっと掴んだ。
「おい、終わったってよ。
じゃあ“お疲れ様の締め”いくか」
「……っ、あ……なに……」
高科が檻の鍵を鳴らす。
周囲の男子が取り囲む。
「お前、落札されたから今日から“商品”。
明日からは“使い方”動画な。
——壊れるまで続くから覚悟しろ」
女子たちもスマホを向ける。
「ねぇ、泣いてる顔撮っとこ」
「受け渡し終了記念〜」
誰も止めない。
誰も助けない。
教室中の笑い声とシャッター音だけが響く。
遥はその中心で、崩れ落ちながら、
声にならない悲鳴を洩らした。
「……ぁ……ぃ……
……やだ…………
……もう……たすけ……」
けれどその声は、
“ただの演出”として笑いに消えた。
𝐚𝐨𝐢