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𝐚𝐨𝐢
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晃司に襟をつかまれ、遥は座敷から引きずり出された。
いとこたちも面白がってついてくる。
廊下を抜け、中庭へ。冬の空気が肌に刺さる。
「ここ、声届かないし。続きやるならちょうどよくない?」
怜央菜の軽い声に、いとこたちが笑う。
物置前の石畳に放り出され、遥は咳き込みながら立ち上がる。
頬は腫れ、腹の奥に鈍痛が残っている。
颯馬が近づき、顎をつかんだ。
「さっきの“俺は何もしてない”ってやつ、まだ言える?」
遥は睨む。
「……言うかよ。お前らが勝手に──」
言い終わる前に、拳が頬を打った。
石畳に倒れ、口の中が再び鉄の味で満たされる。
晃司がゆっくり歩いてきて、遥の腹を一度、深く踏みつけた。
足の重さは、怒りではなく“確認”の重さだった。
お前の立場はここだ、と静かに押し込むような。
遥が咳き込みながら身体をよじると、沙耶香が冷たく言った。
「反抗する意味あると思ってる? 滑稽だよ、あんた」
いとこが隣で笑う。
「兄弟の前だとマジ雑魚だな」
「でもさ、ちょっとは抵抗するの見たいよな? ほら、もう一回何か言えよ」
遥はゆっくりと膝をつきながら、低く息を吐いた。
「……俺は……いつも言われるほど、悪くねぇだろ……」
いとこたちの笑い声が一斉に弾ける。
「聞いた!?」
「“俺は悪くない”だってよ!」
「なにその自己評価。どこから湧いてんの?」
沙耶香はつまらなそうに髪をかき上げる。
「わたし、こいつのそういうとこ一番ムカつくんだよね。
自分を普通だと思ってる感じ。ずっと惨めにしてなきゃ似合わないくせに」
怜央菜が物置の扉を軽く叩きながら言う。
「晃司、今日どこまでやる?」
晃司の目は静かだったが、笑っていなかった。
「こいつ、親戚の前で反抗したんだぞ。
“見せしめ”は必要だろ」
遥の背筋が自然と強張る。
その瞬間──
物置側の廊下から、酒を持った叔父二人が通りかかった。
遥を囲む輪を一瞥し、状況を理解する。
だが、止めない。
むしろ片方が軽く笑った。
「おーい晃司。ほどほどにな」
と言いながら、
“ほどほどにならなくていい”と言わんばかりの顔で去っていく。
遥の胸の奥が冷たくなる。
大人は誰も守らない。むしろ加害を“容認”する。
晃司が言う。
「ほら、お墨付きも出たし。続きをやるぞ」
怜央菜が遥の腕を掴み、無理やり立たせる。
颯馬が背中を押し、壁に固定した。
「反抗してぇなら、口だけじゃなくて身体で示せよ」
「ほら殴れよ俺を。どうした?」
颯馬が挑発するように頬を近づける。
遥は悔しさに震えながら、拳を握った。
だが、その拳は震えていて、上がったところで止まる。
「……殴ったら……もっとお前ら……喜ぶだろ……」
颯馬がニヤリと笑う。
「正解。わかってんじゃん」
怜央菜が遥の背中を蹴り、膝から崩れ落ちさせた。
「なのに反抗したがるのが、お前のいちばんダメなとこ」
晃司が最後に近づき、遥の髪を乱暴に掴み上げた。
「言えよ、遥」
「“俺は役立たずです。殴られて当然です。親戚全員に嫌われて当然です”って」
遥はゆっくりと顔を上げた。
血の味が口の中に残りながら、それでも視線だけは折れない。
「……俺は……役立たずでも……殴られて当然でも……ねぇ……」
いとこたちの嘲笑が一斉に響き、
兄弟の表情から一瞬だけ笑みが消えた。
沙耶香が吐き捨てる。
「──ほんと、イラつくわ。壊したくなる」
晃司が低く答える。
「壊すぞ。今日くらいは」
そこから先の“しつけ”は、さらに深く沈む。
だが、中庭には誰の足音も近寄らない。
本家の明かりだけが遠くで揺れ、
遥の息だけが白く途切れながら上がっていた。