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晃司が遥の前にしゃがみ込み、濡れた石畳を指で叩いた。
「さて。じゃあ聞き取りを始めようか、遥。
さっきの“俺は悪くない”って発言──根拠は?」
遥は唇の血を拭いながら黙った。
颯馬がすかさず後頭部を掴み、顔を無理やり上げさせる。
「おい、答えろよ。沈黙って“反抗”と同じだからな?」
いとこたちが輪を狭め、獲物を囲う動物のように近づく。
「は?こいつまだ折れてないの?」
「年に一回のくせに態度デカくなった?」
「もっとやれよ晃司兄!」
声が重なり、興奮と悪意だけが濃く渦を巻く。
沙耶香が冷たい声で言う。
「遥。黙るって、自分に価値があると思ってる人のやり方なんだよ。
あんたには似合わないよ?」
遥はかすれた声で返す。
「……俺は……黙ってるだけだ……」
瞬間、怜央菜の膝が腹にめり込み、息が抜けた。
「“だけ”じゃないんだよ。上からなんだよその言い方」
崩れ落ちる遥の肩を、颯馬が掴んで押さえつける。
「まだ聞き取り続くから立っとけ。倒れんな。倒れたら踏むぞ」
晃司が淡々と質問を続けた。
「お前、自分がこの家でどう扱われてるか理解してるか?」
遥は口を開くが、言葉にならない。
その沈黙が、兄弟のスイッチを押した。
怜央菜──低く笑う。
「逃げんなよ。黙ると“悪い自分を守ってる”って扱いだからね?」
いとこたちが一斉に囃し立てる。
「答えろよ!」
「喋れないの?」
「殴られたらすぐ黙るよなこいつ!」
遥の目の前に、いつの間にか本家の叔父が立っていた。
酒の匂い。濁った笑い。
「おい、晃司。こいつ寒いなら脱がせとけ。
震えてんの面倒だろ?」
沙耶香が一瞬だけ笑い、すぐに冷たく言った。
「だって。ほら、脱がせて」
怜央菜が乱暴に遥の服を掴み、引き剥がした。
シャツまで引き裂かれ、肌が露わになり、冬の空気が刺さる。
遥は背を丸めたが、颯馬が顎を上に蹴り上げた。
「うつむくな。見せしめなんだから顔上げろよ」
叔父は満足そうに言う。
「そうそう、そいつは“ここでどう扱われるか”を自覚したほうがいい」
遥は歯を食いしばった。
胸の奥で何かが折れそうになる音がした。
いとこが指を鳴らす。
「なぁ晃司兄。次、池いかね?今日めちゃ冷えてて面白いだろ」
その言葉に、少年たちの目が一斉に輝く。
「いいねそれ!」
「氷水入ったらどうなるんだろ」
「声出るかな?泣くかな?」
晃司は遥を見下ろし、淡々と宣告した。
「──遥、中庭の池に行け。
歩け。転ぶなよ。見せしめなんだから」
遥は震える足を動かす。
反抗すれば倍返し。
黙れば“認めた”と扱われる。
逃げ道はない。
池は冬空の下で黒く凍りかけ、冷気が肌に触れるだけで痛かった。
颯馬が後ろから肩を押す。
「入れよ。“悪くない自分”を洗ってこいよ」
沙耶香が追い打ちをかける。
「ほら、“家の立場”教えてもらいなよ。
黙るしかできない人間は、せめて言われたことくらいやって」
遥は池の縁に立つ。
寒さで視界が揺れる。
喉から音が出ない。
いとこたちが最高潮に湧いた。
「いけいけ!」
「押すなよ〜(押す気満々)」
「あーこいつ顔真っ青!」
晃司が後ろから一歩近づいた。
「遥──」
その声は静かで、残酷なほど優しかった。
「入れ」
遥は一瞬だけ息を吸い、
そのまま池の水へ身体を落とした。
破れた息が白く散り、
冬の水が全身を殴るように叩きつける。
いとこたちの歓声だけが、空気を裂く声で響いた。