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眠狂四郎
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#一次創作
ruruha
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藤塚 太陽
31
夕方の光が、机の角だけを白くしていた。
それ以外の場所は、少しずつ色が落ちている。
生徒は椅子に深く座っている。
珍しく背もたれに体重を預けているが、楽そうには見えない。
「……昨日、ちゃんと休んだんです」
ぽつりと言う。
「早く寝て」
一拍。
「スマホも触らないで」
少しだけ間を置く。
「なのに」
視線が机に落ちる。
「今日、全然回復してない感じがして」
指先が動かない。
「むしろ」
小さく言う。
「ずっと重いままっていうか」
教室は静かだ。
外の音もあまり入ってこない。
「休めば戻ると思ってたんですけど」
続ける。
「戻らないと、余計に焦る」
遥はすぐには答えない。
少しだけ時間を置く。
「何から休んだ」
短く聞く。
生徒は少し考える。
「……体、ですかね。寝たし何もしてないし」
遥は小さく頷く。
「頭は」
一拍。
「休んでないな」
生徒の動きが少し止まる。
「……あ」
小さく声が漏れる。
「考えてたかもしれないです。昨日のこととか今日のこととか」
遥は机に指を置く。
「体と頭は別だ」
短く言う。
「どっちかだけ休んでも」
一拍。
「回復した感じは出ない」
教室の空気が少しだけ動く。
生徒は息を吐く。
「……じゃあ」
少し迷う。
「どうやって頭休ませるんですか」
遥は少しだけ考える。
すぐには答えない。
「止めるな」
短く言う。
生徒は眉を寄せる。
「え」
「考えるのを止めようとするな」
一拍。
「無理だ」
教室が静かになる。
「じゃあ」
生徒は少し困ったように言う。
「どうすれば」
遥は机の端を指でなぞる。
「浅くしろ」
生徒は首を傾げる。
「浅く?」
「一個のことを」
一拍。
「深く考えすぎるな。流せ」
教室の空気が少し緩む。
「……難しくないですか」
遥は否定しない。
「難しい」
短く言う。
「だから」
少しだけ間を置く。
「深くなる前に動け」
生徒は少し黙る。
「……例えば」
「同じこと考え始めたら」
一拍。
「別の動きを入れる」
机を軽く叩く。
「歩くとか、シャワー浴びるとか、音を変えるとか」
生徒はゆっくり頷く。
「……止めるんじゃなくて」
小さく言う。
「切り替える」
「そうだ」
遥は短く答える。
沈黙。
窓の外で風が少しだけ動く。
生徒は背もたれから体を起こす。
さっきより少しだけ軽い動き。
「……ちゃんと休んだのに回復しないの」
小さく言う。
「自分のせいだと思ってました」
遥は首を振る。
「仕組みの問題だ」
短く言う。
一拍。
「分かってないだけだ」
生徒は少しだけ笑う。
立ち上がる。
椅子が静かに音を立てる。
扉の前で止まる。
「……今日は」
振り返らずに言う。
「浅くしてみます」
遥は答える。
「それでいい」
短く。
扉が閉まる。
教室はまた静かになる。
休んだのに回復しないとき、足りないのは時間じゃなくて、切り替えの深さかもしれない。
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