テラーノベル
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その日の放課後、特別教室は異様な熱気で満ちていた。
窓は全てカーテンで塞がれ、照明は最小限。
中央には昨日より強化された金属檻。
角度を変えた三台のスマホスタンド。
そして、黒板に貼られた一枚の紙——
《本日の入札式:奴隷個体 No.0──遥》
高科がマイク代わりのスマホを持ち、にやりと笑った。
「——よし。リアルタイム配信、開始」
指が画面をタップした瞬間、コメント欄が滝のように流れ出す。
《来た》
《待ってた》
《今日の奴隷早く》
《檻映せ》
遥は檻の前に立たされていた。
膝が笑っている。呼吸が浅い。
喉が開かない。
「入れ。合図したら喋れ」
高科の声が低く刺さる。
「……はい」
遥は四つんばいで狭い檻の中へ滑り込む。
鉄がひんやりと皮膚に触れ、背中が震えた。
扉が閉まる瞬間、視界が歪む。
《檻キター》
《今日ガチじゃん》
《逃げんなよ奴隷》
高科が配信カメラの前に立った。
「——では、本日の入札式を開始します。
こちら、奴隷個体 No.0、“遥”。
状態は従順、反抗なし。反応良好」
言葉が淡々と処理されていくのが残酷だった。
「まずは“商品説明”からだ。
おい遥、檻の隙間から顔上げろ。
“従う目”で視聴者を見ろ」
喉が震える。
「……っ……こう……ですか……」
《情けな》
《はい従ってて草》
《目死んでる》
高科がわざと視聴者へ囁く。
「ここから最低入札額を決める。
とりあえず、三桁からでいいか?」
《500》
《700》
《1000》
《もっと叩けよ》
《泣かせて》
遥の耳に、数字が刃物のように突き刺さる。
「泣かせろって?」
高科が檻を蹴る。金属音が炸裂した。
「……ッ……!」
《声もっと》
《痛がらせろ》
《逃げるな奴隷》
高科はベルトを握ると、カメラによく映る角度で構えた。
「じゃあ、“反応チェック”いくぞ。
入札者のために、動作確認だ」
一撃。背中へ。
檻の中で体が跳ねる。
「声、出せ。届くようにだ」
「……い、痛い……っ」
150
1,341
《いいね》
《もっと》
《弱すぎて草》
二撃、三撃。
呼吸が千切れ、言葉が漏れる。
「……や、やめ……っ」
その瞬間、コメント欄が爆増した。
《やめ?反抗?》
《反抗した設定でやれ》
《罰しろ》
高科が薄く笑う。
「だってよ。
“反抗したから檻に入れられた奴隷”設定でいくか」
「……っ、ちが……」
「違くねえよ。配信の仕様に合わせろ」
檻の天井を掴み、高科が顔を近づける。
「——“すみません。従います”だろ」
遥は震える唇をなんとか動かした。
「……すみません……従います……」
《はい従順》
《かわいいね奴隷》
《喋らせろよ》
高科がコメントを読み上げる。
「“喋らせて『はい、ご主人様』って言わせて”だとよ。
やれ」
「……っ……」
沈黙。
喉が塞がる。
高科は檻越しに遥の頬を掴んだ。
「言え。
ここで言えねぇ奴隷に価値はねぇ」
逃げ場がなかった。
視聴者の視線が、クラス全体の笑いが、檻が、教室が、
全部“出口のない箱”になって締めてくる。
「……はい……ご主人様……」
言った瞬間、コメント欄が爆発するように流れた。
《来た》
《最高》
《今日一番》
《入札跳ねるぞこれ》
高科がスマホを掲げ、満足げに宣言する。
「——入札開始。
本日の奴隷、No.0。
状態良好、従順度高め。
反抗設定あり、恐怖反応強め。
最低額、1000からだ」
《1200》
《1500》
《2000》
《2500》
《もっと泣かせろ》
数字が踊り、嘲笑が重なり、
檻の中で遥は震えるしかなかった。
「ほら、遥」
高科が低く囁く。
「泣け。
“泣いてる奴隷”は倍になる」
遥の視界に涙が滲んだ。
「……や……っ……」
《泣いた》
《うずくまりアップ映せ》
《価値上がった》
檻の中でうずくまるしかなかった。
痛みより、屈辱より、
“どこを見ても出口がない”ことが恐ろしかった。
高科は、そんな遥を見下ろしながら、
冷えた声で締めくくった。
「本日の入札——まだまだ続けるぞ。
こいつが壊れるまでな」
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