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昼休み。
いつもと同じ、教室裏の薄暗いスペース。
女子グループはすでに輪を作って待っていた。
遥が姿を見せると、
美桜がゆっくりと笑う。
「来た。ほら、約束でしょ?
“もっとわかりやすい”の、今日してあげるって言ったよね」
遥の喉がひくりと動く。
「……別に、望んでねぇけど」
「そゆこと言うと余計やりやすいから助かる〜」
美桜は遥の手首をつかみ、
そのまま壁へ押しつけた。
暴力には見えないように指を軽く添えるだけ。
だが拘束としては十分。
周りの女子が位置を調整し、
“どの角度から見ても、女子が遥を弄んでいるように見える”構図を作る。
美桜はポケットから小さなリップを取り出した。
「これさ……似合うかなって思って。
ほら、動かないで?」
遥の口元に指先で塗る。
強制じゃない。
“優しげな仕草に見えるよう計算された強制”。
周囲の女子たちがすぐスマホを構えた。
「やば〜、“それっぽい”!」
「はい、こっち向いて遥。
……あー、泣きそうになってるの可愛い〜」
美桜は、
リップを塗った指先で遥の顎を軽く持ち上げる。
「ほら、見て。
こうやると……“雰囲気”出るよね?」
言いながら、自分の額を遥の額に“コツン”と当てた。
キスではない。
ただの接触だ。
だが。
写真に撮れば、どう見ても“キス”にしか見えない。
遥が息を呑む。
「……やめろよ」
「ほらまた“そういう声”出しちゃった。
男子が聴いたらどんな顔するだろ〜?」
周囲が笑い声を重ねる。
「ねぇ、もうちょい“わかりやすい”のやろっか」
美桜はゆっくりと、
遥の肩に手を回し、耳元に口を寄せる。
「……動くな」
囁きは甘い声のまま、冷たい。
そのまま、
耳たぶすれすれを息で撫でる。
触れてはいない。
だからこそ卑猥に見える。
スマホのシャッター音が連続した。
「ほら〜、“耳噛んでる”みたいに見えない?」
「やっば……男子が見たら絶対誤解するよこれ!」
「今日、倉庫に呼ばれるかな?
ねぇ遥?」
遥の肩が震えるのを、女子たちは面白がってさらに近づく。
「震えてる〜。“その気”あるみたーい」
「違ぇ……よ……!」
絞り出した声は、女子の笑いで消えた。