テラーノベル
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放課後。
教室には数人しか残っていないのに、妙に入りづらい空気がある。
生徒は席につかず、ドアの近くで立ったまま言う。
「話しかける前に疲れるんです」
遥は椅子に座ったまま視線を向ける。
「まだ話してないのに?」
「……はい」
苦笑いみたいに返る。
「話しかけようとは思うんです」
一拍。
「でも、その前に」
言葉を探す。
「タイミングとか。
変じゃないかとか。
今いけるかとか」
少しずつ声が小さくなる。
「考えてるうちに、もう無理になる」
沈黙。
遥はすぐ返す。
「始まる前に試合しすぎだな」
短く。
生徒は少し止まる。
「……でも考えません?」
遥は机に指を置く。
「考える」
一拍。
「でも、お前」
短く。
「“成功する形”まで作ろうとしてる」
教室が静まる。
「……あ」
小さく出る。
遥は続ける。
「相手の反応予測して。
流れ予測して。
変な空気にならない形探してる」
一拍。
「だから始まる前に消耗する」
沈黙。
生徒は目を伏せる。
「……毎回シミュレーションしてます」
遥は言う。
「しかも悪い方ばっか」
短く。
教室の空気が少し重くなる。
「だって」
生徒は言う。
「失敗したくないし。
変な間とか嫌じゃないですか」
遥は否定しない。
「嫌だな」
短く。
「でも」
一拍。
「その回避に体力使いすぎてる」
沈黙。
「……じゃあ」
生徒は言う。
「考えない方がいいんですか」
遥は首を振らない。
「減らせ」
短く。
「ゼロじゃなくて」
教室が静まる。
「話しかける前に必要なのって」
遥は続ける。
「“内容”じゃない」
一拍。
「入るきっかけだけだ」
生徒は少し顔を上げる。
「……きっかけ」
「今暇?
それ見せて。
今日だるいな」
一拍。
「その程度で始まる」
沈黙。
「……もっとちゃんとした話題必要だと思ってました」
遥は言う。
「入口に完成度求めすぎだ」
短く。
教室の空気が少し変わる。
「あと」
遥は続ける。
「お前、話しかけた後の責任まで背負ってる」
生徒は止まる。
「……責任?」
「盛り上げないと。
変にならないようにしないと」
一拍。
「会話続けないと」
短く。
「そこまで一人で持ってる」
沈黙。
「……持ってました」
小さく。
遥は言う。
「会話は共同作業だ」
短く。
「相手も動く」
教室が静まる。
「全部自分で回そうとするから重い」
生徒は息を吐く。
「……なんか」
少し笑う。
「始まる前から最後まで考えてました」
遥は何も言わない。
「だから疲れるのか」
一拍。
「入口だけなら」
少し考える。
「まだマシかも」
遥は短く言う。
「十分だ」
教室は静かになる。
生徒はドアの方を見る。
さっきより、少しだけ近い。
話しかける前に疲れるのは、
まだ始まってない会話を、一人で最後まで背負ってるからだ。
入口だけでいい。
続くかどうかは、その後決まる。
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ruruha