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𝐚𝐨𝐢
昼休みの昇降口。
なぜか机が一つだけ運ばれ、ライトの代わりにスマホが数十台向けられている。
ざわつきはすでに“行事”のそれで、クラスLINEには
《今日ひる、奴隷ショーやる》
の文言が飛び交っていた。
「はい集合ー。今日の“公開命令ショー”、始めまーす」
中心に立つのは高科と美桜。
二人の声だけで空気が締まる。
「主役、来て。早く」
背中を押す手はない。
だが、背後で鳴ったベルトの音で、遥の足が一段深く沈んだ。
触れられてもいないのに、身体は勝手に従ってしまう。
机の前に立たされると、ざわめきが笑いへ変わった。
「じゃあ最初の命令。“姿勢、下げろ”。ほら、見せ物なんだから」
遥は喉を震わせた。
「……や、やめ……」
「声ちっさ。聞こえねーよ。
“やめてください”ってちゃんと言え」
「……やめて……ください……」
「はい駄目〜、誠意がない。普通それ、“殴られた後の声”だろ?」
笑いが起こる。
言葉だけなのに、背中に冷たい汗が流れ落ちる。
何かが迫る“気配”だけで、遥の肩がびくっと震えた。
「次。“返事の練習”。言え、
『命令に逆らいません』」
遥は唇を噛み、視線を伏せた。
「……い……」
背後で、また硬い音が鳴った。
たったそれだけで、肺が強制的に縮んだ。
「……命令に……逆らいません……」
「ほら言えるじゃん。かわいい〜。
じゃあ加速していくよ。“土台が壊れない限界まで”やるから」
美桜の声は甘く、それでいて底がない。
「“見られてる”って分かって言い直して?
もっと聞こえる声で」
遥は肩を震わせながら、ぎこちなく顔を上げた。
「……命令に……逆らいません……」
「はい拍手ー」
廊下の全員がスマホ越しに笑い、軽快な音が混じった。
その音のひとつ、乾いた衝撃のように響くベルト――
それだけで、遥は膝が一瞬抜けそうになる。
高科が机を指で“コン”と叩いた。
その一音だけで、遥の呼吸が跳ねる。
「じゃ、人格破壊タイム入るぞ」
「タイトルやめろよw」
「いや合ってる」
美桜が耳元にスマホを近づけた。
「コメント来てるよ。《もっと屈服した声が聞きたい》だって。
ほら、“従ってるフリじゃないやつ”やって?」
遥の喉が震えたまま声を搾り出す。
「……す、すすみません……」
「謝ってる理由、言えよ」
沈黙。それだけでまた“コンッ”という音が机から返ってくる。
遥の肩が跳ねる。
「……め、命令……されて……っ、従えなくて……」
「従えなくて?」
「……すみません……」
「はい合格〜。でもまだ弱い。
もっと“使い物になる声”出るだろ?」
ざわっ、と周囲が期待の笑いに変わる。
高科がさらに机を強く叩く。
一度、二度、三度。
そのたびに遥の足元が揺れ、呼吸が乱れ、
見えない衝撃に押しつぶされるように背が丸くなっていく。
「ほら、“命令”。次これね」
高科がスマホを読み上げた。
「《自分の立場を言わせろ》だってさ。
おまえの立場、言えよ」
遥は胸を押されるように息を詰めた。
「……お、……俺は……っ」
机が“ガン”と強く鳴る。
その音だけで遥は腰が抜けそうになり、歯の根が合わなくなる。
「……俺は……っ……みんなの……っ、命令に……したが……っ」
「聞こえねぇ! やり直し!」
耐え切れず、遥は叫ぶように吐き出した。
「……命令に従う……っ、立場……です……!」
廊下中に歓声。
まるで競り落とした商品を初披露したかのような熱狂。
「はい今日のショー終わりー。
次回は“命令の種類”もっと増やすから期待しとけ」
「逃げんなよ?」
その言葉に、遥の体温だけが急激に下がった。
遥は、足が震え、呼吸は浅く、
帰りのチャイムが鳴る頃には、声が出ないほど喉が枯れていた。
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