テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
537
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
放課後。
窓際の席だけ光が強くて、教室の奥は少し暗い。
生徒はその中間みたいな場所に座っている。
「人といる時だけ」
間。
「自分が薄くなる感じするんです」
遥は静かに視線を向ける。
「薄くなる」
短く繰り返す。
「何が」
生徒は少し考える。
「……自分って感じです」
一拍。
「一人の時は普通なんです。考えたいこともあるし、好き嫌いもちゃんとある」
視線が机に落ちる。
「でも、人といると」
少し声が小さくなる。
「合わせる方が先になる」
沈黙。
「笑うタイミングとか、空気とか、相手の反応とか」
一拍。
「そっち見てるうちに」
小さく息を吐く。
「自分がどっか行く」
遥はすぐ返す。
「“周り優先モード”が強すぎるな」
短く。
生徒は黙る。
遥は机に指を置く。
「お前」
一拍。
「人といる時、“自分がどうしたいか”止めてる」
教室が静まる。
「……止めてる」
遥は言う。
「迷惑じゃないか、浮かないか、変じゃないか」
一拍。
「そこが最優先になってる」
沈黙。
「……はい」
小さく返る。
遥は続ける。
「だから」
短く。
「存在感じゃなくて、適応力だけ残る」
教室の空気が少し変わる。
生徒は少し顔を上げる。
「……適応力」
遥は言う。
「相手に合わせる能力は高い。
でも」
一拍。
「合わせ続けると、自分の輪郭が消える」
沈黙。
「なんか」
生徒は苦く笑う。
「便利な人みたいになります」
遥は否定しない。
「近いな」
短く。
教室が静まる。
「でも」
生徒は言う。
「合わせないと、人といられなくないですか」
遥は少しだけ間を置く。
「合わせるのは必要だ」
短く。
「問題は」
一拍。
「“消してまで合わせる”ことだ」
沈黙。
生徒は止まる。
「……違い、あります?」
遥は机を軽く叩く。
「合わせるってのは調整だ。消すってのは停止だ」
一拍。
「お前は後者寄りだ」
教室の空気が少し重くなる。
「……自分の意見とか」
小さく。
「飲み込むこと多いです」
遥は言う。
「嫌われない代わりに」
短く。
「自分も残らない」
沈黙。
生徒は何も言わない。
遥は続ける。
「で、帰った後」
一拍。
「“何してたんだろ”になる」
生徒はゆっくり頷く。
「……あります」
小さく。
「人といたのに、空っぽみたいになる」
教室が静まる。
「じゃあ」
生徒は言う。
「どうすればいいですか」
遥は少しだけ考える。
「小さいのでいいから」
短く。
「“自分側”を残せ」
生徒は眉を寄せる。
「……例えば」
遥は言う。
「行きたくない店なら言う。笑えないなら無理に乗らない」
一拍。
「好きなもの聞かれたら、薄めず答える」
沈黙。
「全部主張しろって話じゃない」
短く。
「でも、一個も残さないと消える」
教室の空気が静かに落ち着く。
生徒は息を吐く。
「……自分」
一拍。
「“合わせられる”を良いことだと思いすぎてた」
遥は短く言う。
「やりすぎると透明になる」
沈黙。
生徒は立ち上がる。
「少しくらいズレても」
一拍。
「自分残した方がいいのか」
遥は何も言わない。
生徒はドアへ向かう。
歩き方は、来た時より少しだけ重心がある。
人といる時に薄くなるのは、空気に合わせすぎて、自分側を全部止めてるからだ。
調整は必要だ。
でも、消える必要まではない。