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教室の隅。
昼休みのざわめきの中で、その一角だけが妙に熱を帯びていた。
スマホを中心に、数人の男子が身を寄せて笑っている。
画面には昨夜アップされた動画──遥が泣き崩れる直前の切り抜き。
再生数は異様なほど伸びていた。
「はい来た、“泣かせて”ってやつ。人気すぎw」
ひとりがそう言うと、すぐに別の男子が肩を揺らして笑う。
「泣かせるのは簡単だろ。昨日の動画の続き撮るか」
“昨日の動画”。
その言葉だけで、彼らの視線が無言でひとつに揃う。
獲物を確認するように、教室の前の席で縮こまっている遥の背中へ向かった。
「“従わせて”は? もう従ってんじゃん、あいつ」
当然のように吐かれる言葉。
それに誰も反論しない。
彼らの中で、遥の意思はとっくに“存在しない”ものとして処理されていた。
「喋らせるのはおもしろそう。“はい、ご主人様”ってw」
「それ絶対バズる。声震えるだろうし」
笑い声が連鎖し、机を叩く音すら混じる。
「檻はマジで作るか? 工具のワイヤーでいけんだろ」
「作ろうぜ、昼休みに設計図決めよう。ウケるわ」
「オークション風もやりたい。タイトルどうする?」
「『今日の展示品』とかでよくね」
“展示品”。
その言葉を口にしながら、彼らはもはやそれが人間を指していることを意識していなかった。
“扱いやすい素材”か何か、そんな目つきだった。
「“首輪似合う”ってコメント5件来てんのウケる」
「見た目ほんと向いてるよな。雰囲気が」
「うずくまりアップは撮っとく。あいつ勝手にそうなるし」
「“商品説明もっと”は誰か文章担当しろよw」
「おまえ文才あるしやれよ。“本日の特徴”とか書いてさ」
「つーか普段こいつ何してんの? 尾行する?」
「アリ。そういう裏設定作っとくとシリーズ伸びる」
「“もっと恥かかせて”は一番簡単。教室でやれば勝手に広がる」
その瞬間、彼らは全員、同じ方向へ顔を向けた。
黒板の前で、教科書を抱いたまま席に戻れず立ち尽くす遥。
震えていた。
だが、その震えは彼らの笑いを加速させるための燃料にしかならなかった。