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最初にそれを論文として提出したとき、学会は笑った。
星は愛から生まれる。
それが常識だったからだ。
王妃の愛。
恋人の愛。
夫婦の愛。
形は違っても、すべて「愛」だとされてきた。
だから若い研究官の結論は、あまりに単純すぎた。
――星は愛ではなく、関係から生まれる。
最初に読んだ老学官は、ため息をついた。
「言葉遊びだ」
それだけだった。
論文は棚に置かれ、しばらく誰も触れなかった。
だが。
王宮外で星が生まれ始めた。
しかも無色星も。
恋愛とは関係ない関係から。
親子。
友人。
仲間。
観測記録が増えるにつれて、棚に眠っていた論文が、再び取り出された。
王宮観測塔。
石の壁に囲まれた会議室で、数人の学官が円卓を囲んでいた。
机の上には星図と記録書。
そして一冊の薄い論文。
「これを書いたのは誰だ」
年配の学官が聞く。
若い男が手を挙げた。
「……私です」
まだ三十にもならない研究官だった。
緊張している。
「君は言っている」
老学官は紙を叩いた。
「星は愛の強さではない、と」
「はい」
「では何だ」
若い研究官は少し息を吸った。
「関係の持続です」
沈黙。
「続いている関係は星になる」
彼は続ける。
「終われば消える」
「証拠は」
すぐに聞かれる。
研究官は星図を広げた。
「観測記録です」
指がいくつかの星を示す。
「恋愛星」
「友情星」
「家族星」
色は違う。
だが共通点がある。
「長く続く関係ほど安定しています」
そして。
「突然の強い感情より」
紙をめくる。
「静かに続く関係の方が、星として長く残る」
部屋が静まる。
老学官が小さく言う。
「……つまり
恋の情熱より
友情の継続の方が強い場合もある」
「はい」
研究官は頷いた。
「そして」
少しだけ声が震える。
「無色星は」
全員が彼を見る。
「関係が特定の感情に依存していない可能性があります」
愛でもない。
友情でもない。
だが関係はある。
「それが無色星です」
沈黙が落ちる。
老学官は長く考えた。
やがて言う。
「……もしそれが正しいなら」
部屋の空気が変わる。
「星は神の奇跡ではない。
人間の現象だ」
そのとき、扉が開いた。
王宮の使者が入ってくる。
「王太子殿下が、この論文の報告を求めています」
部屋の空気がさらに重くなる。
その夜。
王宮の書斎。
王太子は論文を読んでいた。
静かな部屋。
灯りは一つだけ。
「どう思う」
向かいに座るエリュネに聞く。
彼女は少し考えた。
「納得できます」
「即答だな」
「観測と一致しています」
彼女は言う。
「関係が続いている星は消えません」
「終われば消える」
「はい」
王太子は椅子にもたれた。
「面白いな」
「何がですか」
「つまり」
彼は空を見上げる。
窓の外。
夜空。
「恋は一瞬でも燃える。
だが」
小さく笑う。
「それだけでは星にならない」
エリュネは少し考える。
「続ける必要があります」
「努力だな」
「はい」
その言葉を聞いて、王太子は少し笑った。
「努力する恋か」
彼は言う。
「それは格好悪いかもしれない」
エリュネは首を振る。
「いいえ」
静かな声。
「とても人間的です」
王太子は一瞬黙った。
やがて、少しだけ目を細める。
「……それは」
彼女を見た。
「君にも言えるのか」
エリュネは答えなかった。
ただ空を見る。
無数の星。
金色。
青。
緑。
そして無色。
空は、静かに広がっていた。
その夜。
観測塔の記録が更新される。
無色星。
また一つ増えた。
場所は王都。
王宮のすぐ近くだった。