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#恋愛
昼休みの空気がまだ残っている。
机の上には、さっきまで誰かがいた痕跡みたいに、ペットボトルの水滴が輪を作っていた。
生徒は椅子に浅く座っている。
すぐ立てる姿勢のまま、でも帰る気配はない。
「……グループにいるんです」
前置きみたいに言う。
「普通に一緒にご飯食べて」
少し間を置く。
「話もするし」
そこで言葉が一度切れる。
続きがあるのに、出し方を迷っている沈黙。
「でも」
小さく続ける。
「ずっと、外にいる感じがするんです」
遥は何も言わない。
「自分だけ一歩引いてるっていうか」
指先で机を軽く叩く。
「会話に入ってないわけじゃないんです。
ちゃんと笑うし、返すし」
一拍。
「でも、なんか」
言葉を探す。
「“参加してるふり”してるみたいな」
教室の奥で、椅子が引かれる音がして、また静かになる。
「向こうは普通に接してくれてるのに」
続ける。
「自分だけ違う場所にいる感じが消えない」
少しだけ息を吐く。
「そのまま帰ると」
視線を落とす。
「なんで一緒にいたんだろってなる」
遥は机に指を置いたまま、少しだけ間を取る。
「一人のとき」
静かに聞く。
「同じ感じはするか」
生徒はすぐには答えない。
考える時間が、そのまま答えの形になっていく。
「……しないです」
やがて言う。
「一人のときは、別に普通で。楽っていうか」
遥は小さく頷く。
「じゃあ」
一拍。
「“外側”なのは場所じゃないな」
生徒は少しだけ顔を上げる。
「え」
「自分の中だ」
短く言う。
教室が少しだけ重くなる。
「……どういうことですか」
遥は机の端を指でなぞる。
「相手を見てる時間より」
一拍。
「自分を見てる時間が長い」
生徒は黙る。
「今ちゃんとできてるか。
変じゃないか。
浮いてないか」
淡々と続ける。
「それをずっと確認してると」
少しだけ間を置く。
「どこにいても外側になる」
生徒の指先が止まる。
「……ずっと気にしてるかもしれないです」
小さく言う。
「変に思われてないかとか会話ズレてないかとか」
遥は否定しない。
「確認が多いと」
短く言う。
「参加してる感覚が削れる」
沈黙。
外でボールが弾む音がした。
「じゃあ」
生徒は少し迷う。
「どうすればいいですか」
遥は少しだけ視線を動かす。
「一個でいい」
短く言う。
「何を」
「確認を減らす」
一拍。
「全部やめなくていい。
一個だけ」
机を軽く叩く。
「今日は“ズレてないか”を見ない、とか」
生徒は小さく息を吐く。
「……一個だけ」
繰り返す。
「そうすると」
遥は続ける。
「外側にいる時間が少し減る。
ゼロにはならないけど」
一拍。
「位置が変わる」
生徒はしばらく何も言わなかった。
でも、さっきより肩の力が少しだけ抜けている。
やがて立ち上がる。
「……グループ抜けたいわけじゃないんです」
扉の前で、ぽつりと言う。
「でも、この感じがしんどくて」
遥は答える。
「抜けるかどうかの前に」
短く言う。
「中に入る練習だ」
生徒は少しだけ振り返る。
何か言いかけて、やめて、代わりに小さく頷いた。
扉が閉まる。
教室はまた静かになる。
人の中にいるのに外側にいる感覚は、たいてい、距離ではなく視線の向きで決まっている。