テラーノベル
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夜の二時。
真白はデスクに向かったまま、目を細めていた。
モニターの光だけが部屋を照らしている。
リビングは暗い。
寝室のドアも閉まっている。
アレクシスは、まだ起きている。
ヘッドセットを外し、キーボードから手を離す。
海外クライアントとのオンライン会議が、やっと終わった。
画面の時刻は、向こうの午後。
こちらの深夜。
静かに椅子を引く。
真白の背中が見える。
「まだ起きてる?」
小さく声をかける。
「ん」
短い返事。
「寝ないの」
「もう少し」
真白の仕事は、国内向け。
本来なら、もうとっくに終わっている時間。
でも今は、大型アップデート前。
詰まっている。
アレクシスは冷蔵庫から水を取る。
コップに注ぐ音。
「会議?」
「うん。追加修正」
「多いね」
「向こうが昼だから」
真白は小さく頷く。
視線はモニターのまま。
「俺、朝早い」
「知ってる」
「起こすかも」
「起きない」
言葉は淡々。
でも、空気は少し重い。
アレクシスは真白の後ろに立つ。
画面を見る。
キャラクターの挙動チェック。
細かい修正。
「終わりそう?」
「今日中に一通り」
「今日中って、もう明日」
「分かってる」
その声に、少し棘がある。
アレクシスは何も言わない。
ただ、背中を見ている。
前は、真白の仕事が忙しいとき、横に座っていた。
今は、時間が合わない。
真白が寝る頃に、アレクシスは起きる。
アレクシスが仮眠を取る頃に、真白は出社する。
生活が、ずれている。
「……最近」
真白が言う。
「うん」
「顔、ちゃんと見てない気がする」
指はキーボードを打ったまま。
アレクシスは一瞬、言葉を探す。
「今、見てる」
「そういうのじゃなくて」
タイプ音が止まる。
真白が振り向く。
目の下に、少し影。
「普通に、話す時間」
小さい声。
責めていない。
でも、寂しさはある。
アレクシスはデスク横にしゃがむ。
「今週、山越えるって言ってた」
「うん」
「俺の案件も来月まで」
「うん」
“うん”ばかり。
「終わったら、戻る?」
真白が聞く。
「戻る?」
「前みたいに」
アレクシスは、少しだけ笑う。
「戻るっていうより、合わせ直す」
「同じじゃない」
「違う?」
「違う」
真白は目を伏せる。
「変わってくの、嫌いじゃないけど」
少し間。
「置いてかれるのは、嫌」
その言葉は、はっきりしていた。
アレクシスは手を伸ばす。
真白の椅子の背に触れる。
「置いてかない」
「今ちょっと置いてってる」
否定できない。
沈黙。
モニターの光が二人を照らす。
アレクシスは静かに言う。
「終わったら、どこか行こう」
「またそれ」
「約束」
真白は少しだけ笑う。
「具体性がない」
「じゃあ、温泉」
「冬?」
「冬」
「遠い?」
「近場」
少しだけ、空気が戻る。
でも、完全じゃない。
時計は二時三十分。
「寝る」
アレクシスが立ち上がる。
「うん」
真白は再び画面に向き直る。
ドアを閉める前、アレクシスは振り返る。
真白の背中は、小さく見える。
同じ家にいる。
同じ部屋にいる。
それでも、時差はある。
物理的じゃない距離が、
少しずつ形になっていく。
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ruruha
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